研究課題/領域番号 |
19K03526
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
南 就将 慶應義塾大学, 医学部(日吉), 教授 (10183964)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Sturm-Liouville 作用素 / ランダム作用素 / シュレーディンガー作用素 / 実効再生産数 |
研究実績の概要 |
(1)2021年度に引き続き、減衰因子を持つホワイトノイズをポテンシャル項とする1次元シュレーディンガー作用素のスペクトル、特にその負の部分を考察した。減衰因子が空間的に二乗可積分である場合に作用素は下に有界となり、その下界は減衰因子のホワイトノイズに関する確率積分を用いて評価される。一方、減衰因子が空間的に二乗可積分でない場合には、その積分の値が有限にならない。このことから作用素は下に非有界であることが示唆されるが、ホワイトノイズでない通常の関数をポテンシャルとする場合の直観には合わないことであり、また論理的なギャップを埋めることができず、下からの有界性について決定的な結果を得るに至らなかった。 (2)ランダムなシュレーディンガー作用素に対するスペクトル統計などに用いる道具である点過程によって感染症の実効再生産数の数学的基礎付けを試みた。まず、典型的な1個体と集団の他の成員とのランダムな接触過程がポアソン点過程により記述されると仮定した。また、接触の結果感染が成立した後の行動変容と他者への感染性の変化を表す2つのランダム関数κとpを導入した。κにより感染個体の他者との接触過程が定まり、さらにpによって接触による他者への感染成立の確率が定まる。以上を組み合わせた確率モデルは正の時間軸上の非定常な点過程を定めるが、その全質量はこの感染者が産み出す2次感染者の総数を表し、その期待値が実効再生産数と解釈される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ホワイトノイのような超関数をポテンシャル項とするシュレーディンガー作用素においては、ポテンシャル項を摂動として分離することができない。そのため、ホワイトノイズの特徴を活かした確率解析的な手法に頼って研究を行ってきたが、その方針にやや限界が感じられるようになっており、確率論に頼らない新しい形の関数解析的手法がないか模索していることが研究の遅れの主な理由である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)行列値のポテンシャル項を持つシュレーディンガー作用素に対して、今までに得られた結果の拡張を試みる。まずポテンシャル項が行列値の超関数である場合に、Sturm-Liouville作用素に対するものと同様の固有関数展開の理論が可能であることを確認する。次に減衰因子を持つ行列値のホワイトノイズをポテンシャル項とする場合、特に減衰因子が空間的に二乗可積分である場合にスペクトルの正の部分と負の部分の性質をそれぞれ決定したい。この課題は従来の方法の拡張により可能と予想している。 (2)ホワイトノイズから作られるポテンシャル項を持つシュレーディンガー作用素を調べるための確率解析的方法とは、主に固有値方程式の解の漸近挙動を確率1で示すことである。これに対して、ランダム性がない1つの超関数をポテンシャル項とする作用素の解析にはこのアプローチは有効でないので、従来のヒルベルト空間論の枠組みを見直して、一般化Sturm-Liouville作用素を含むような抽象的一般理論の構築を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は2022年度に引き続きCOVID-19の流行により研究交流のための出張旅行は行わず、旅費として使用予定だった資金を本研究課題に関連する専門図書の購入に充てた。しかしながら、購入予定だった図書のいくつかが年度内に刊行されなかったため、その分の金額が未使用となった。 本研究課題に深く関連する研究集会が2020年にフランスで計画されたまま2年間延期されていたが、2022年に開催の見込みであり、出席を検討している。2022年度の資金のうち旅費として使用予定の分を渡仏のために充て、物品費は昨年度に引き続き専門図書の購入に充てたい。
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