研究課題/領域番号 |
19K03536
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
羽鳥 理 新潟大学, 自然科学系, 教授 (70156363)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 等距離写像 / バナッハ環 |
研究実績の概要 |
連続関数からなるバナッハ環の全射等距離写像に関して,その2局所性に関するMolnarの問題について連続微分可能関数のバナッハ環について肯定的な解答を得て研究協力者の大井との共著論文を出版した。関数の種類に依存する方法であるため連続関数全体のバナッハ環やリプシッツ環をはじめとするバナッハ環に対しては結論を得ることはできなかった。 自然なノルムを持つバナッハ空間やバナッハ環についてのJaroszの定理はその上の全射複素線形等距離写像は自動的に上限ノルムを保存する,つまり上限ノルムについての等距離写像であることを主張している。従って自然なノルムを持つ単位的半単純可換可換バナッハ環の間の全射複素線形等距離写像は荷重合成作用素であることが従う。Jarosz自身の定理の証明ではノルムに関するある種の条件を満たすことが暗黙のうちに認められている。Tanabeとの共著論文においてこの条件が確かに満たされることの簡潔な証明を与えた。 単位的可換C*環に値をとる連続関数からなるバナッハ環の間の複素線形全射等距離写像に関する本研究者と研究協力者の大井による結果の証明を改良した内容を数理研の講究録から出版した。 バナッハ環上の全射等距離写像全体の群に対してその2局所反射性について,特に閉区間[0, 1]上の連続微分可能関数全体のバナッハ環とリプシッツ環の場合に得られた内容を数理研の講究録から出版した。関数の定義域が閉区間に限定されているのは,主定理の証明において閉区間上の特別な関数のクラスに対して機能する方法を用いたためである。 2局所等距離写像に関して日本数学界2019年度年会で講演を行った。バナッハ環の間の等距離写像が積の構造やJordan積の構造を保存することの重要性について,関数環研究集会と数理研での研究集会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
連続関数からなるバナッハ環の全射等距離写像に関して,その2局所性に関するMolnarの問題について連続微分可能関数のバナッハ環について研究協力者の大井の協力の下研究を行い一定の成果を得た。関数の種類に依存する方法であるため連続関数全体のバナッハ環やリプシッツ環をはじめとするバナッハ環に対しては結論を得ることはできていない。 自然なノルムを持つバナッハ空間やバナッハ環についてのJaroszの定理により,その上の全射複素線形等距離写像は自動的に上限ノルムを保存することがわかり,よって上限ノルムについての等距離写像であることが分かる。従って自然なノルムを持つ単位的半単純可換可換バナッハ環の間の全射複素線形等距離写像は荷重合成作用素であることが従う。Jarosz自身による証明ではノルムに関するある種の条件を満たすことが暗黙のうちに認められている。この条件が確かに満たされることの簡潔な証明をTanabeとの共著論文で与えた。 一般ジャイロ空間の理論の整備とバナッハ環に付随するジャイロ構造の研究についてはいくつかの興味深い現象を見いだしており,いくつかの知見も得られたので現在発表に向けた準備段階に入ったところである。 海外で行われた大きな研究集会に出席し講演する予定であったが,本務校での実務的な行事と重なったために出張することを取りやめたこともあり,研究代表者として海外出張に関する旅費の支出はなかった。
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今後の研究の推進方策 |
全射等距離写像の2局所性に関するMolnarの問題は,単位的半単純可換バナッハ環の場合について研究協力者の大井により大きく進展しているなかで,多くの場合も含めて研究を進展させたい。バナッハ環上の等距離写像が和の構造や線形構造だけでなく積の構造(バナッハ環が非可換の場合にはJordan積の構造)に関わることは,Banach-Stoneの定理以来広く認識されているところであり,Jaroszによる抽象論はこの点を研究している数少ない理論の一つである。等距離写像が積の構造に言及する様子を詳しく調べたい。全射等距離写像が実線形性だけでなく積の構造を保存する現象は,スペクトル保存写像に関するKaplansky問題とも大きく関わっていると考えられる。そこで等距離写像が積の構造やJordan積の構造を保存することの実像について研究を進めたい。 単位的C*環の正凸錐は適当な演算とオリジナルノルムにより一般化ジャイロベクトル空間であることは研究代表者と研究協力者の阿部により示されている。さらにユニタリー不変ノルムの場合に関しても研究代表者による研究がある。さらに代数構造や中点,平均などの構造に関する研究を推進したい。
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