研究課題/領域番号 |
19K03536
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
羽鳥 理 新潟大学, 自然科学系, フェロー (70156363)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 等距離写像 / Tingley 問題 / バナッハ環 / GGV |
研究実績の概要 |
C*環やバナッハ環の部分構造は例えばGGV(generalized gyrovector space)として表現できることがあることに着目した研究を行い一定の成果を得ることができた。バナッハ空間やバナッハ環の部分構造としてその球面を想定して、その上の保存問題、特に距離を保存する写像(等距離写像)についての研究が急激に盛んになってきている。これはTingley問題と呼ばれることもあり、40年近くの歴史をもった数学上の未解決問題である。反例も見つかっていない。GGVはバナッハ空間の一般化であり、また単位的C*環の正凸錐がGGVであるという事実から、Tingley問題の対象はバナッハ空間にとどまらずGGVを対象とした問題とも言える。このことを受けて、令和3年度の本研究のなかでは、その特別の場合について新たな知見を得ることができた。連続関数からなる各種バナッハ環やバナッハ空間においてTingley問題を考察することはC*環のある部分構造がGGVであることとの関連からも、重要であると考え一定の研究を行った。その結果としてコンパクトハウスドルフ空間上で定義された複素数値連続関数からなるバナッハ環関数環の場合について一定の成果を得ることができた。このようなバナッハ環は関数環ともよばれ、可換C*環はその例であり、さらに円板環をはじめとして解析関数からなるバナッハ環も関数環の例として多く知られている。従って関数環におけるTingley問題の解決は、正則関数からなるバナッハ空間に対する実質的に初めての結果である。研究成果は論文としてJournal of Mathematical Analysis and Applicationから発表し、また令和3年度に行われたRIMS(on line)での国際研究集会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度の直接経費については当初は国内外で開催される研究集会などに参加するためのものに多くを支出する予定であった。しかしながらコロナ渦など国内外の状況の中海外のみならず国内の研究出張も実施することはまったくできなかった。従って旅費に予定していた直接経費を使用することができなかった。各種研究集会は自らの研究成果を発表できる貴重な機会であり、また他の研究者の講演を拝聴できる機会でもある。研究集会に参加することは、本研究課題遂行にとって重要なポイントである。研究集会は国内外の研究者と直接研究交流できる非常に大切な機会でもあるから、研究出張ができなかったことにより国内外の研究者と直接交流できなかったことは、本研究課題の進捗状況に大きな影響を与えた。Web経由で開催される研究集会に参加することができたので、海外の研究者との研究交流はまったく不十分であったが多少なりともできたといってよい。このような状況のもと、当初計画では本年度が研究最終年度であったが、延長申請を行い令和4年度に研究を継続することが承認された。研究の遅れを令和4年度に取り戻せる機会と捉えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年6月に開催されるInternational Linear Algebra Societyの会合に招待講演を依頼されていたが、コロナ渦などの国内外の諸般の事情を考慮して参加を辞退することとした。令和4年度においても海外出張を通しての研究遂行が困難な状況も見込まれる。令和4年度においてもコロナ渦などの状況が改善できないことも十分想定できるが、その場合においても国内外の研究者とWeb経由などで論文や数学的な書物を用いて研究打ち合わせなどを行っていきたい。Tingley問題はバナッハ空間の部分構造の間の等距離写像についての問題である。GGV(generalized gyrovector space)はバナッハ空間を一般化したものと考えられる。バナッハ空間を対象としたTingley問題は広くはGGVを対象とした問題と捉えることもできる。一方任意のバナッハ空間はある局所コンパクトHausdorff空間上の連続関数全体からなる関数空間の閉部分空間であるから、Tingley問題を一様ノルムについて閉であるような関数空間上の問題として記述できる。本研究の中でさらに積について閉じているような関数空間の場合を扱い、そのcomplex Mazur-Ulam property(対象のバナッハ空間の単位球から任意の複素バナッハ空間の単位球への等距離写像が全体のあいだの実線形な等距離写像に拡張できる性質)について一定の知見を得ることができたことを元にして、その発展について研究を行いたい。またすでに得られている知見については令和4年6月に海外でWebで開催される国際研究集会で成果を発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、当該助成金は国内外で開催される研究集会などに伴う費用として多くを支出する計画をしていた。一方国内外の状況から対面で実施される研究集会がほとんどなくなり出張する機会はなくそのため本年度使用予定であった助成金は使用できなかった部分が生じた。そこで当初計画を修正しながら翌年度に使用するつもりで本事業期間の延長申請を行い、延長が承認された。そのため「次年度使用額」が「0」より大きくなった。
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