研究課題/領域番号 |
19K03539
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山上 滋 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 名誉教授 (90175654)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Daniell integral / state functional / hypergroup / Stieltjes transform |
研究実績の概要 |
昨年度からの継続として、量子確率の基礎としての測度論の整備に努めた。とくに、測度の拡張の多様性について、最大測度と最小測度およびそれらの果たす役割について整理でき、さらには出版に至ったことは幸いであった。測度の自然な拡張としては、最小測度が優れているのであるが、一方で測度論で重要な位置を占める外側度との比較においては最大測度が適切なものとなる。この両者が一致する場合が、ある意味望ましい状況で、それはいわゆるシグマ有限性を含むものとなっている。ただ、一般には異なる性質となっていて、その食い違いの程度については今後の研究に待たなければならない。
これに関連して、ダニエル拡張に接続するための初等的積分論として、実用的であると同時に理論的な整合性をもったものとして、開集合上の連続関数の積分を用いる手法を開発した。これは従来の方法と比べると、連続関数の積分と広義積分を折衷するものになっていて、初等性を維持しつつ、非連続関数の実用的な扱いを可能にし、なおかつダニエル拡張にも直接接続するというもので、教育的に悩ましい問題点を回避できるものと期待される。
今年度は、これの他に2019年度で得られた量子対称性を記述する超群の状態(正定値関数)のスペクトルについての新たな知見が得られた。これは自由確率論の専門家からの指摘に端を発し、自由確率論との関連で研究がなされてきた free convolution が与える確率分布のスティルチェス変換の連分数展開の安定性に関する性質が、超群のスペクトル測度においても成り立つというものである。この連分数展開の安定性が何に由来するかは未だ謎ではあるが、連分数展開の代数構造とスティルチェス変換の正値性が両立する場合の解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
昨年度そうであったように、新型コロナウィルスに伴う行動制限により、研究情報のやりとりが十分できず、残念ながら遅れに遅れている。 幸い、対称性変容の実例に関連したスペクトルの性質について新たな知見が得られるつあることは明るい材料と言えよう。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間の延長申請が認められたので、遅れていた部分も含めて、研究テーマの実現に向けて、以下のことを試みていきたい。 量子系における環境パラメータの定式化を数学的に行い、 無限自由度の環境系と有限自由度系の関わり合いを記述するための道具として完全正写像の理論をテンソル圏の言葉で書き直す。その上で無限自由度系における scaling flow による熱力学的安定性により古典力学的状態量に対称性が転写される様子を記述する。 最終的には環境としての時空の幾何学が再現されるプロセスの仕組みを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で、研究情報の交換に係る経費が執行できず、そのための残額である。 願わくば地球規模での移動再開が可能となり、遅れていた計画が着実に実行に移せるよう、計画の変更も含めて検討していきたい。 とりあえず、前年度末に得られた成果の公表に向けた作業から始める予定である。
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