研究実績の概要 |
本研究の研究対象は, 複素曲面上の双正則もしくは双有理自己同型写像による複素力学系である. 今年度は, 有理曲面上で正の位相的エントロピーをもち反標準曲線を保つ双有理写像のクラスに焦点を当てて研究を行なった. 当該クラスは写像が代数的に記述されるため, 解析可能な力学系モデルとなっている. 各写像は反標準曲線を保つため, 写像に対してディターミナントが定義されるが, このディターミナントの絶対値が1ではない双有理写像に対するジュリア集合について調べた. 具体的には, 有理曲面上で自然に定義される面積形式に関してジュリア集合は面積ゼロとなることを示した. 特に, 写像に対して最大の測度論的エントロピーを実現する不変測度が定義されるが, この不変測度が自然な面積形式に関して特異となることになる. 当該結果は, 以前に双正則写像に対して示した結果を双有理写像に対して拡張したものであるが, 双有理写像には不確定点が存在するため, 不確定点の挙動をいかに制御するかが難しい点であり議論の要となる. 今後は, ディターミナントの絶対値が1の写像, つまり, 面積保存の力学系に対するジュリア集合についても調べていくとともに, K3曲面上の力学系に対してジュリア集合がどのような形状となっているか調べていくつもりである. 本研究結果に関しては, 現在執筆中である. また, 京都力学系セミナー及び研究集会「複素力学系理論の総合的研究」においてオンラインによる講演を行なった.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により, 予定していた出張が延期となったため, 次年度使用額が生じた. 次年度は, オンライン等により自身の研究成果を発表するため, パソコン等を購入する予定である.
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