研究課題/領域番号 |
19K03550
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研究機関 | 神奈川工科大学 |
研究代表者 |
土谷 洋平 神奈川工科大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (80460294)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | FLバイアス / ソリトン解 / 多成分可積分系 / 非局所項を持つ数理モデル / 非局所項を持つ可積分系 |
研究実績の概要 |
昨年度は、多成分q-BO方程式の特殊解を構成することができた。新しい可積分系を提案したものの明らかな解しか見つけることができないでいたので、この結果は心強い。円周上を動く多ソリトン解のような解であるが、各成分のゼロモードが時間変化する。ゼロモードの総和は系の全エネルギーであり、各成分の間でエネルギーがやり取りされているような解釈を想起させる、変わったソリトン解である。この結果は、2021年度物理学会春季大会で発表し、現在論文誌へと投稿準備中である。また、栗原一貴氏と共著で、論文「Efficient Micro-Behaviors in Pari-mutuel Betting System and FL Bias」を出版することができた。これは可積分系ではないが、時間遅れの項が本質的な役割を担っていると考えられる数理モデルに関する論文であり、本プロジェクト関係者が持っている時間遅れ項に対する洞察の強みが活かされた成果である。数学の研究では、このように思わぬ副産物が生じることがある。パリミュチュエル形式の投票において、(強い)効率市場仮説と矛盾するFLバイアスと呼ばれる現象が1970年代から知られており、主に非効率的な投票者の存在を仮定した説明が試みられてきた。今回の結果では、全投票者が効率的に振る舞ったとしても、FLバイアスが発生しうることが示された。また、本プロジェクトの公表のためのホームページも作成することができた。現在 http://demo5.science-server.com/16799/index.html で公表されている。現在、永く運営できるように適切なレンタルサーバーを探しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
学会発表、論文出版、研究集会の開催、ホームページの作成によって、本計画を世間に周知する活動は進めることができた。しかし、本丸である研究課題の解決が、2020年の秋以降進んでいない。本研究の目的を要約するとPeriodic ILW equation with discrete Laplacian (PILW) という方程式の周辺の数理構造の解明である。そのための一里塚として、特殊化であるPBO方程式の構造について、一定の進歩を得たのが2020年前半の成果であった。それ以降、PILWへと進む予定であったが、ほとんど進めていない。2021年秋に研究出張を行い、そこでPILWの多成分化に成功した感触を持ったが、数学なので、詳細を詰めるまでは確かなことは言えないし、論文や学会発表の形にもできていない。遅れが生じた理由として一番大きいのは、研究に深く没頭する時間が短かったこと、関連研究者とのディスカッションが不足していたこと、である。どちらも表面的なことではなく、研究環境に解決を求めるべき問題だと考える。やはりコロナ禍体制での研究体制が確立できないでいる。これまで、課題を突破するようなアイデアを得る時には、関連研究者と食事中も休まずに一日10時間以上検討した数日後が多かった。また、小さな研究集会やセミナーに頻繁に参加して思考のための環境を整えていたからこそ、脳の底力を活用できていたのだと痛感する。環境の再構成に力を入れたい。
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今後の研究の推進方策 |
ひとまず、2021年度物理学会春季大会で発表した内容の論文化が最優先事項である。次に、PILWの多成分化に本当に成功しているのかを検証し、学会発表と論文化することが優先される。これで、本来の研究計画が、真に一線を超えて進んだと言える。しかし、昨年度と同様の進捗速度であれば、これらだけでも完成は2022年度ちょうどか、2023年度前半になる恐れが大きい。コロナウィルスの流行を取り巻く環境に変化がないようであれば、もう1年研究計画を延長するなどで対応したい。また、作成した本計画のHPを、恒久的に公表できるようなweb環境の構築も優先度が高い。 推進の方策の基本線に変更はない。すなわち、次の1と2である。1.PILW方程式周辺の数理構造を研究するために、関連研究者(白石潤一氏、渡邉聡氏、Mariusz Bialetki氏、大久保勇輔氏、Alexey Litvinoc氏、他可積分系の研究者)との研究打ち合わせを行う。学会発表を行う。論文投稿を行う。2.ホームページの作成と周知のためのセミナー開催などを行う。 しかし詳細で方策の変更が必要である。まず研究打ち合わせを、まとまった日程で深く長く考えられる合宿形式にする必要がある。これまでは1泊2日で訪問し、事務的なことを除けば実質10時間ほど議論と思考をする形式だった。また、本課題に関する研究者は、日本とロシアが最も盛んである。地政学的な事情でロシアでの成果発表が2022年度に行えない場合、2023年度以降に発表する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由1(次年度使用額の54%):研究課題のホームページの作成(当該年度内に完了した)の支払いが、翌年度(2022年度)となってしまったため。 次年度使用額が生じた理由2(次年度使用額の46%):研究課題の進捗そのものに遅れが生じたため。論文公表にフリーアクセスオプションをつけること、特に国際会議での発表すること、などができなかったため。 使用計画:理由1については、すでに請求が確定しているため、2022年度初頭に使用される。理由2(課題の推進そのものの遅れに起因)は、研究時間は確保できていたものの、深く考える時間の確保に問題があったためである。次の2つで対策したい。1.コロナ以前の研究体制を模倣するために、合宿形式の研究打ち合わせを関連研究者で開く。2.2020年度以降の速度でしか進捗しないことを受け入れて、研究計画の期間を延ばす。
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