研究実績の概要 |
粘菌集合体形成の生物数理モデルは, Keller-Segel 方程式と呼ばれる二つの放物型偏微分方程式の系で記述される.この方程式系の研究のブレイクスルーとなった1995年のNagaiの研究は, 粘菌の走化性放物型方程式の時間発展スケールを粘菌密度関数のそれより極めて小さいと考え導出した,Nagaiモデルと呼ばれる放物型-楕円型偏微分方程式系の数学解析である.本研究の移流拡散方程式系の研究はその多くがNagaiモデルを礎とした放物型-楕円型移流拡散方程式系の数学解析である.Keller-Segel方程式系とNagaiモデル方程式系の数学的相関関係を明らかにすることは極めて重要な研究課題である. 本年度は, Keller-Segel方程式系の走化性方程式の時間微分項に緩和時間パラメータτを設置した初期値問題を空間2次元と空間高次元の問題に分けて,解のτ→∞での特異極限問題をそれぞれ考えた. 極限方程式はNagaiモデルである放物型-楕円型移流拡散方程式系と期待できる.Raczynski(2009) とBiler-Brandolese(2009)の先行研究は空間2次元初期値問題に対してscaling 不変なクラスの小さい初期値の時間大域解に対して, 特異極限が行われたもので,その収束位相空間は擬測度空間あるいはLorentz空間である. しかも大きな初期値に対する時間爆発解の議論が含まれていない.本研究では空間2次元および高次元において,大きな初期値に対する時間局所解もふくむ問題に対して,scaling 不変な,Serrinの許容指数を持つLebesgue-Bochner空間で, 自然な特異極限の解析に成功した. 解析には熱方程式の初期値問題に対する, 一般化された最大正則性を用いて, 臨界空間の設定のまま解の平滑化効果から生じる余剰正則性を用いずに, 漸近収束を証明する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では空間2次元,高次元での大きな初期値に対する時間局所解をふくむ初期値問題に対して,scaling 不変な,Serrinの許容指数を持つLebesgue-Bochner空間で, 自然な特異極限の解析に成功した. 解析には熱方程式の初期値問題に対する, 一般化された最大正則性を用いて, 臨界空間の設定のまま解の平滑化効果から生じる余剰正則性を用いずに, 漸近収束を証明する.
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