研究実績の概要 |
本研究では,定数係数(あるいはその摂動)の反応拡散方程式系の非定数定常解の存在と安定性を主題とした従来の研究から離れて,係数が空間変数に大きく依存するような反応拡散方程式系の定常解の存在と安定性を研究してきた.特に,ヒドラの頭部形成をモデル化した受体-配体模型に見られる拡散種と非拡散種の相互作用に基づくパターン形成のモデル方程式系は系統的な研究がまだ少なく,本研究でも,中心的な研究対象としている.これまでに,一次元空間の場合に変数係数化した受体-配体模型に対し,定常解の連続体が存在することを示し,また,それらの安定性を判定した.次の段階は,これらの結果を高次元領域に拡張することであるが,定常問題は不連続な非線型項をもつ単独楕円型方程式に対する境界値問題に帰着するため,張恭慶による可微分でない汎函数に対する峠の補題を適用するなど,新しい工夫が必要となる.研究代表者は,そこで,まず定数係数の場合にこの方法を適用し解の存在を示し,さらに,拡散係数が非常に大きい場合について解の漸近形を求めた.また,領域が球の場合に充分小さな拡散係数に対し,内部遷移層をもつ球対称な解を特異摂動法により構成した.これらの定常解の安定性についても明らかにした.この高次元領域に対する結果は,論文として学術雑誌に掲載されている. 他方,分担者は,非拡散種が複数あり,拡散種が一つの場合について,以下の二つの結果を高次元領域において得た:(A)すべての種が連續であるような定常解は,つねに不安定である.(B)非拡散種に跳躍不連続性が生じるような定常解の構成方法を考案し,その定常解が安定となり得ることを示した. 最後に,本研究課題の総括として,国際研究集会"Turing Symposium on Morphogenesis, 2024" を開催した.海外から6名,国内から33名の参加者を得た.
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