確率空間上の保測変換に対するPoincare再帰定理は,任意の可測集合について,その集合に属するほとんど全ての点は変換の反復合成のもとその集合を無限回訪れることを主張する.この性質(再帰性)は,エルゴード理論においてもっとも基本的かつ重要な性質の一つであり,現在も様々な観点から活発な研究がなされている.そうした研究の一つに,確率空間上の保測変換族に対する多重再帰性の研究があり,特に可換な保測変換族に対する多重再帰性の研究は近年著しく進展した. 本研究ではこれまでに,Furstenbergの意味で排反なエルゴード的保測変換族に対する多重エルゴード平均の二乗平均収束定理や,距離型のPoincare再帰定理を確立していた.今年度はこれらの議論を整備しつつ,Khintchine型の多重再帰定理を確立した.ここにKhintchine再帰定理は,単一保測変換に関するPoincare再帰定理から見つかる無限回の再訪時間のなす集合が,自然数全体において相対稠密であることを主張するものである.この意味で,Khintchine型の再帰性はPoincare再帰性の定量化とみなせる.さて,可換な保測変換族に対して,Poincare型の多重再帰定理は自然な拡張がなされているにもかかわらず,Khintchine型の多重再帰定理は一般に自然な拡張が成立しないことが,近年Bergelsonたちによって指摘されていた.これに対し本研究では,Furstenbergの意味で排反な保測変換族に対して,Khintchine型の多重再帰定理は自然な拡張をもつことを明らかにした.Furstenbergの意味での排反性は可換性と独立な性質であり,両者の興味深い対比を見出すことができたと思われる.以上の成果について,論文を作成した.
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