研究実績の概要 |
研究代表者は積分幾何学の超局所解析あるいは幾何学的トモグラフィーとよぶのが適当かと思われる分野に数年前に新規参入して新米研究者をしている。2021年度は、n次元ユークリッド空間上のd-平面変換 (0<d<n) とよばれる積分変換について研究し、超局所解析の基盤を構築してトモグラフィーに関連する具体的な課題についての結果を得た (arXiv:2108.11067)。d=1 の場合はX線変換で d=n-1 の場合がラドン変換である。d-平面変換はn次元ユークリッド空間上の関数をアフィン・グラスマン多様体 G(d,n) 上の関数に写像する楕円型フーリエ積分作用素であるが、まず研究代表者はその正準関係 (canonical relation) を具体的に記述するために G(d,n) の余接束を記述する独自の座標系を導入して正準関係を求めた。CTスキャナー (n=2,d=1) では人体がステントやインプラント等の金属を含む場合に線質硬化とよばれる非線型効果によって出力に線状の乱れ (streaking artifact) が発生することが知られている。筆者は最も単純な線質硬化のモデルに対して、正準関係を利用して線質硬化は複数の金属部分の領域があるときに境界のなす部分多様体が共通接平面を持つ場合の共通接線を特異台とする conormal distribution であることを証明した。これは n=2,d=1 の場合に、線質硬化を初めて波面集合ととらえた Park, Choi, Seo (CPAM 2017) や conormal distribution であることを示した Palacios, Uhlmann, Wang (SIAM J. Math. Anal. 2018) の高次元化である。高次元、特にn=3,d=1の正準関係を使えるようになったので今後のさらなる応用が期待される。
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