研究実績の概要 |
反応拡散方程式に対する自由境界問題において,未知関数は反応拡散方程式で記述される関数と,方程式が定義された領域の二つである.領域の境界においては Stefan 型境界条件が与えられる.このような自由境界問題は2011年に Yihong Du 教授によって提起されて以来,多くの研究者によって研究されてきた.数理生態学における外来生物の侵入現象をモデルとして考えると,二つの未知関数は生物種の個体数密度と棲息領域と解釈することができる. 本研究課題のもとで我々の研究グループが取り組んできたテーマは,正値双安定な反応項を伴う反応拡散方程式に対する自由境界問題の解の漸近挙動の解析である.反応項が正値双安定とは,零を含む4つの非負平衡点のうち、2つの正値平衡点が安定となることである.我々は空間次元が1の場合,および空間次元が2以上で環境が球対称の場合について,時間無限大における自由境界の挙動は,vanishing,big spreading, small spreading, transition の4タイプに分類できることを示していた.さらにvanishing 以外のケースでは、自由境界が無限に広がり,その拡大速度などの漸近挙動についても詳細な評価が得られている. 本年度の研究成果は高次元空間での非球対称の条件のもと,自由境界問題の解挙動の分類,および自由境界の漸近評価や反応拡散方程式の解の漸近プロファイルについて正確な評価を求めたことである.我々は球対称な優解と劣解を適切に構成し,比較原理により解の漸近挙動を詳しく評価することができた.さらにある条件下では,big spreading 解のプロファイルはテラス型の形状を伴うことを示した.すなわち解は,零と小さい安定平衡点を結ぶ semi-wave と二つの安定平衡点を結ぶ進行波解という異なる速度を伴う関数によって近似される.
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