研究課題/領域番号 |
19K03574
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
柳 青 福岡大学, 理学部, 准教授 (70753771)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 凸包 / 準凸関数 / ハミルトン・ヤコビ方程式 / 無限大ラプラシアン / 距離空間上の固有値問題 / 主固有値 |
研究実績の概要 |
2021年度の本研究の成果は以下の通りである.
(1)ハイゼンベルグ群上の凸解析について研究を続け,一定の進展を得られた.ハイゼンベルグ群における関数の凸包の概念や構成法については以前の研究で明らかになったが,それに対応する集合の凸包をどのように構築するかは知られていなかった.沖縄科学技術大学院大学のA. Kijowski氏とX. Zhou氏との共同研究では,ハイゼンベルグ群における準凸関数の性質を用いて,集合の凸包の新たな構成法を確立した.準凸関数を一つ非局所的ハミルトン・ヤコビ方程式の粘性劣解で特徴づけられることを明らかにし,さらにその方程式に基づく離散化スキーム及びレベルセット法により,集合の凸包の構成に成功した.これらの研究結果に関する論文は現在投稿準備中である.
(2)一般の距離空間上の偏微分方程式についても研究を進めた.粘性解理論の視点から,距離空間において無限大ラプラシアンの主固有値と固有関数の存在について考察し,ユークリッド空間で知られている結果を一般の測地距離空間まで拡張した.この研究は福岡大学の三石史人氏との共同研究であり,論文は現在投稿中である.また,距離空間においてハミルトン・ヤコビ方程式と微分ゲームとの関連について沖縄科学技術大学院大学のX. Zhou氏と共同研究を行った.距離空間内の曲線を制御として加えることにより,従来のゲーム論的解釈を一般化することに成功した.この結果をまとめた論文も投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一つ与えられた集合の凸包をどのように構成するかは凸幾何学の基本的問題である.ハイゼンベルグ群の場合では,空間構造が特殊であるため,問題を解決するには新たなアプローチが必要である.本研究では,非局所的ハミルトン・ヤコビ方程式の粘性解理論に基づく手法を考案し,その方法が効果的であることを明らかにした.サブリーマン多様体における集合と関数の凸性について偏微分方程式論の観点から理解を深めたと同時に,非局所的非線形方程式の粘性解理論も充実させた.本研究は予定通り進展し,順調に進んでいる.また,サブリーマン多様体を含めた一般の距離空間上の解析に関する研究も進みつつある.前年度の結果をさらに発展させ,固有値問題への応用を実現した.
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今後の研究の推進方策 |
粘性解理論を生かした凸包の構成法の有効性を確認できたものの,研究の鍵となる非局所的ハミルトン・ヤコビ方程式に関する研究はまだ不十分であり,いくつか重要な課題が残っている.強い凸性を持つ領域に対し,粘性解の一意性を示せたが,ハイゼンベルグ群上の一般領域における境界値問題に適用できる比較定理の証明はまだ未解決であり,今後重点的に取り組むべきである.また,今回の新しい解析的手法を用い,集合の凸包の安定性や正則性などの性質を調べ,ユークリッド空間の結果との同異点を考察する価値がある.本研究のさらなる発展として,サブリーマン多様体における様々な関数不等式や最適化問題などとどのような繋がりがあるのかも今後探究する.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により,国内外の出張や研究者の招聘などが一部中止または延期となった.生じた残額は,次年度の出張旅費と研究者の招聘旅費として使用する.また,研究論文をオープンアクセス化するための掲載費用等としても使用する.
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