本研究では、超幾何関数の漸近解析と大域解析を研究テーマとした。前者では、パラメータをもつ超幾何級数のパラメータを無限大に飛ばしたときの漸近挙動を調べる方法を導入した。その応用として、超幾何関数における特徴的な恒等式であるガンマ乗積公式の構造を調べる方法を与えた。漸近展開については、超幾何級数の積分表示を用いずに、級数のまま鞍点法的な要領で漸近展開を実行するための離散鞍点法を展開した。最終年度は、前年度までに得ていた一変数の理論を見直すことに努め、どのような定式化をすれば多変数化できるかについての予備的な考察を行った。この考察を今後の展開につなげていく予定である。大域解析では、超幾何関数の大域挙動を記述する群であるモノドロミー群を考察の対象とした。すなわち、モノドロミー群をモデルとする行列群である超幾何群の理論的研究を行った。特に超幾何群から得られる整格子とその上の自己同型を用いて、超越的 K3 曲面とその上の正エントロピーをもつ正則自己同型を構成する方法を導入した。この方法を用いて、K3曲面上の力学系の研究を行った。特にジーゲル円板と呼ばれる不変領域をもつK3曲面上の力学系を多数構成することができた。最終年度は、前年度に引き続いてK3曲面のピカール数とジーゲル円板の存在に関する考察を継続した。また回転数が1であるような回転領域をもつK3曲面の力学系の考察を開始した。本研究課題で得た成果は、次の研究課題「超幾何関数と超幾何群の新展開」に発展的につなげていく予定である。
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