研究課題/領域番号 |
19K03581
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
久藤 衡介 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40386602)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 反応拡散方程式 / 拡散の相互作用 / 非線形楕円型方程式 / アプリオリ評価 / 分岐 |
研究実績の概要 |
有界領域におけるロトカ・ボルテラ競争方程式系において線形拡散項と交差拡散項を付加した反応拡散系に対して定常解の大域構造を研究した.この系は1979年に競争種の棲み分けを再現する数理モデルとして重定-川崎-寺本によって提唱されたが,現在では拡散の相互作用のプロトタイプとして国内外で盛んに研究が行われている.とりわけ,交差拡散係数の増大が定常解の大域分岐構造に与える効果を抽出する観点では,1999年にLou-Niによって,片方の交差拡散係数を無限大にしたときの定常解の漸近挙動を特徴づける極限系が2種類あることが示され,それらの極限系に対する研究に進展をもたらしたが,両方の交差拡散係数を無限大にしたときの定常解の漸近挙動については懸案であった. 両方の交差拡散係数を無限大にしたときの,定常解の漸近挙動が2種類の極限系によって特徴付けられることを証明した.その内の1種類目の極限系は,競争種の定常的な個体群密度に対応するふたつの未知関数の台が完全に分離される自由境界問題であり,これは線形拡散項のみを付加するロトカ・ボルテラ競争方程式の競争係数を無限大にする極限系と一致する.2種類目の極限系では,ふたつ未知関数の積が正定数となり,完全な棲み分けには至らない状況(不完全棲み分け)を記述する. 証明における最大の難所は,定常解の最大値の交差拡散係数に依らない先験的評価であったが,線形拡散系に変換する従来の方法とは本質的に異なる方法で解決した.具体的には,交差拡散項を展開すると,解のある種のサイズが大きい範囲では最大値原理が適用されることを見出し,空間次元に制限を置かない先験的評価を証明した. また,attractive transition 型とよばれる拡散の相互作用を伴うロトカ・ボルテラ被食者-捕食者系に対して,相互作用を増大させたときの定常解の漸近挙動を記述する極限系の解析を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交差拡散項を伴うロトカ・ボルテラ競争系(重定-川崎-寺本モデル)の定常解の大域構造に関する研究においては,本研究課題の最大の難所であった,両方の交差拡散係数を無限大にした際の極限系の導出を空間次元に対する制限を置かず成功した点で,当初の目標をやや早く達成し,順調に進展していると評価できる. また,重定-川崎-寺本モデルにおいて片方の交差拡散係数を無限大とした際に現れる極限系の研究については,研究協力者である Yaping Wu 氏(首都師範大教授・北京・研究協力者)との打合せを新型コロナウイルスの感染拡大によって中止した影響で,論文の執筆が当初計画より若干ながら遅れている. さらに,捕食生物が餌である被食生物の高密度な地域へ高確率で移動する傾向を模する attractive transition 型の非線形拡散を伴うロトカ・ボルテラ系の研究においても,拡散の相互作用を無断大とした際の極限系に対する解析は進展しており,おおむね順調であると評価できる. 総じて,本研究課題は概ね順調に進展していると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
重定-川崎-寺本モデルの定常解の大域構造の研究については,2019年の研究で得られた両方の交差拡散係数を無限大とするふたつの極限系の内,不完全棲み分けを記述する極限系の解の大域分岐構造を調べる.極限系とはいえ,反応項は元々のSKTモデルの二つの反応項の差に無理関数が入る複雑な形をしており,まずは空間1次元における相平面解析を丹念に行うことから始める.また,2019年度の研究では,ノイマン境界条件の下で極限系の導出に成功したが,ディレクレ型などの他の境界条件の下で極限系がどのようになるかを調べる.必要に応じて,空間1次元の反応拡散極限系に対する特殊関数を用いた解析手法の先駆者である四ツ谷晶二氏(龍谷大学名誉教授・研究協力者)の助言や井上順平氏(早稲田大学大学院博士後期課程・研究協力者)の協力を仰ぐ. また,重定-川崎-寺本モデルにおいて,片方の交差拡散係数を無限大とする極限系の解析については,第2極限系とよばれる従来の研究が手薄な極限系について,定常解の分岐枝の無限遠分岐点付近における安定性解析を空間多次元で完成させる.新型コロナウイルスの感染拡大によって Yaping Wu氏(首都師範大学教授・研究協力者)との直接会っての打合せは難しいが,ZOOM等を用いた連携を行い,停滞気味にある論文執筆に拍車をかける. 上述の attractive transition 形の非線形拡散を伴うロトカ・ボルテラ被食者-捕食者系の研究においては,大枝和浩氏(九州産業大学講師・研究協力者)との連絡を密にとりつつ,定常解の大域分岐構造に対する解析を進める.また,attractive transition 形の非線形拡散については時間発展問題に関する研究報告も少ないことから,その観点での研究にも着手する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初参加予定であった研究集会が新型コロナウイルスの感染拡大のため中止になったため次年度使用額が生じた. 2020年度においては,やはり新型コロナウイルスの感染拡大のため,講演予定であった米国での国際シンポジウムが延期になったため,その分の旅費については年度末までの中国への研究打合せに切り替える.その他の研究集会の実施の有無についても不明であり,出張費の支出が少なくなる可能性もあるが,数値シミュレーションを実施するための計算機や関連する専門書の購入など適正な使用に充てる予定である.
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