研究課題/領域番号 |
19K03589
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
谷島 賢二 学習院大学, 理学部, 研究員 (80011758)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | シュレーディンガー方程式 / シュレーディンガー作用素 / 散乱の波動作用素 / ルベーグ空間 / 点相互作用 / 閾値漸近解析 / レゾナンス / 断熱近似 |
研究実績の概要 |
量子力学の運動方程式であるシュレーディンガー方程式とそのハミルトニアンであるシュレーディンガー作用素の数理について研究し、とくに、以下のような成果を得た。 1)外部電磁場の中におかれた、任意有限個の互いに相互作用する量子力学的粒子群の運動を支配する時間依存型シュレーディンガー方程式の初期値問題の解が存在し一意的であるための外部電磁場ならびに相互作用に対する条件を、既知の結果を大幅に改良し、物理学において用いられるほとんどすべての応用に適用できるように十分に一般的に定めた。 2)2次元あるいは3次元空間において有限個の点と一点相互作用素をする量子力学的粒子を記述するシュレーディンガー作用素のスペクトル・散乱理論について研究し、次の成果を得た。a) 3次元空間における散乱の波動作用素が通常のポテンシャルをもつシュレーディンガー作用素の波動作用素の極限として得られるこことを証明した。b) 2次元空間における点相互作用シュレーディンガー作用素のレゾルベントの閾値における漸近挙動とレゾナンスあるいは閾値固有関数の存在、並びに波動作用素のルベーグ空間における連続性との関連を調べ、これらが相互作用する点の位置と相互作用の強度によって如何に決定されるかを明らかにした。 3)量子力学における断熱近似の理論を研究した。とくに、時間依存型のシュレーディンガー方程式においてハミルトニアンが一定時間までは離散固有値のみを、次の一定時間は連続スペクトルのみを、さらにその後は初期時間と同様な離散固有値をもつ場合、ある固有状態から出発した粒子が連続スペクトルの中を通過した後において元の状態に存在する確率が連続スペクトルの中に滞在する時間にどのように依存するかを決定し、このような場合における断熱近似の破れ方の一例を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年3月の停年退職によってこれ以降の研究のための時間が潤沢にとれるようになったのが第一のまた最大の理由である。また 1)8月にデンマークにおいて開催された国際会議QMath14において多くの研究者と接触し研究情報ならびに研究成果の交換をおこなって研究のためアイデを得ることができた。 2)さらにこの研究集会を挟んでオーフス大学に約一ヶ月滞在し、現地での共同研究者と共同研究をすすめることができた。特に2次元点相互作用のをもつシュレーディンガー作用素のスペクトル・散乱理論の研究、ならびに時間依存型のシュレーディンガー方程式に対する断熱近似の破れの研究が大きく進展した。 3)7月にモンゴル国立大学の点相互作用をもつ3次元シュレーディンガー作用素の散乱の波動作用素に関する共同研究者を訪問、また秋には同研究者を招聘し波動作用素が通常のポテンシャルをもつシュレーディンガー作用素の波動作用素の極限として表現する共同研究を行い同課題の研究が大きく進展した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も量子力学の運動方程式であるシュレーディンガー方程式とそのハミルトニアンであるシュレーディンガー作用素の数理について研究を推進する。これまでおこなってきた、任意有限個の点と点相互作用をする2次元シュレーディンガー作用素の波動作用素のルベーグ空間での有界性に関する研究の手法が、通常のポテンシャルをもつ2次元シュレーディンガー作用素の散乱の波動作用素のルベーグ空間における有界性に関する20年以上未解決な問題の研究、すなわち波動作用素のルベーグ空間における有界性が閾値におけるレゾルベントの漸近挙動あるいはレゾナンスまたは閾値固有値の存在に伴ってどのように変化するのかの研究、に適用できそうであることが分かってきた。この手法は同様に未解決となっている4次元空間における同様な問題にも適用できると期待される。今年度ならびに来年度はこの問題の解決のために研究時間のほとんどを費やすことになろう。
2020年度はコロナウイルスの感染の恐れのため国内外の多くの研究集会が中止あるいは来年度に延期されたため、多くの研究者との一堂に会して研究情報の交換は不可能になっている。また欧州・モンゴルなどの日本人に対する国境閉鎖あるいはわが国によるこれらの国からに研究者の訪問に対する国境閉鎖のため共同研究者の訪問あるいは招聘は不可能で、昨年度から予定していた共同研究者の招聘、あるいは訪問は来年度に延期することにした。このため現在、研究の情報交換はもっぱら web によるセミナー、あるいは電子メールによって行っている。この状態は今年度中は続くと思われるので、これらの手法による研究情報の収集、交換を行っていく。また学習院大学への出入りも制限された状態が続くと思われ、さらに通勤による感染の可能性を減らすため、在宅での研究を進めていくことにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末におけるコロナウイルスの感染の拡大のため、学習院大学の研究室への出席回数ならびに都内出張の回数が減少し、少額の次年度使用額が発生した。コロナ感染の危険性がなくなり次第共同研究者の招聘あるいは共同研究者への来訪の費用として使用する計画である。
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