研究課題/領域番号 |
19K03589
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
谷島 賢二 学習院大学, 理学部, 研究員 (80011758)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | シュレーディンガー作用素 / 散乱の波動作用素 / ルベーグ空間 / 閾値特異性 / 閾値共鳴 |
研究実績の概要 |
2020年度はおもに2次元空間におけるシュレーディンガー作用素の波動作用素のルベーグ空間での連続性の研究を行った。2次元シュレーディンガー作用素が閾値に特異性をもたない場合は、すでに1998年の研究代表者の論文と2002年のJensen教授との共著論文において、波動作用素は指数が1より大きな任意の有限指数をもつルベーグ空間において連続であることが証明されている。一方、閾値に特異性がある場合、問題は極めて困難で、2018年にやっとErdogan-Goldberg-Greenによって部分的な解決がなされたのみであった。すなわち、一般に特異性にはs波共鳴、p波共鳴ならびに零固有関数からなる有限次元空間が伴っているが、閾値の特異性に伴うこの空間がs波共鳴のみ、あるいは零固有関数のみからなる場合には波動作用素は1より大きい任意の有限指数をもつルベーグ空間において連続であることが示された。研究代表者は昨年度のCorneanならびにMichelangeliとの共同研究によって得られた結果をもとにしてまず点相互作用をもつ2次元シュレーディンガー作用素に対して, 次いで一般のポテンシャルをもつ2次元シュレーディンガー作用素に対して、それぞれが閾値に特異性をもつ場合に、波動作用素が1より大きい任意の有限指数をもつルベーグ空間において連続であるための必要かつ十分な条件は特異性に伴う空間にp波共鳴が存在しないことであること、 またp波共鳴が存在する場合には、波動作用素が連続となるルベーグ空間の指数は1と2の間(2を含む)で2より大きな任意の指数に対して波動作用素は不連続となることを証明した。これによって、2次元シュレーディンガー作用素に関するこの問題はほぼ完全に解決された。これらの結果はいずれも論文にまとめられそれぞれポアンカレ研究所紀要、ならびに日本数学会欧文誌にacceptされている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2002年に2次元空間のシュレーディンガー作用素の波動作用素のルベーグ空間での有界性に関する論文をJensen教授との共著として発表して以来、閾値に特異性をもつ場合は極めて困難であると考えていたが、2019年度の点相互作用に関するCorneanならびにMichellangeli教授との共同研究によって閾値に伴う共鳴と零固有関数のなす空間の構造とレゾルベントの特異性の関連性が明らかになり、レゾルベントのやや詳しい表現が共鳴や零固有関数を用いて得られた。これによって波動作用素の低エネルギーにおける構造が明らかになり、問題に関数解析や調和解析における様々な手法、特にヒルベルト変換などの特異積分作用素やFourier multiplier定理を用いた解析、ならびにハーン・バナッハの定理などの抽象的な定理の適用が可能であることが明らかになった。 同様な解析が一般のシュレーディンガー作用素にも可能であることもわかり、問題は思ったより早く解決した。共同研究の重要性を実感した次第である。この研究によって2次元空間のシュレーディンガー作用素の波動作用素のルベーグ空間での有界性に関する関する研究はほぼ完成し様々な問題に応用されることを期待している。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度にはまずシュレーディンガー作用素の波動作用素のルベーグ空間での有界性に関する残された問題、すなわち4次元空間においてシュレーディンガー作用素が閾値に共鳴状態を伴う特異性をもつ場合に波動作用素がルベーグ空間において連続となるか否かの研究を行う。コロナが収束し7月末までにワクチンの接種が終った場合には8月にドイツのボンボン大学を訪問しこの問題に関しての共同研究をMichelangeli教授とその共同研究者とともに行う。また9月から10月にかけてはデンマーク Alborg大学を訪問しJennsen教授ならびにCornean教授とこの問題に関する共同研究の予定をしている。またモンゴル国立大学のGaltbayar教授を招聘しこの問題に関する共同研究を行う。
この問題とは独立に時間周期系の量子力学に関する研究を行う。時間周期系に関しては様々な問題が未解決であるが、とくに相互作用が時間に周期的に依存する多体系の散乱理論の確立、外部電場による分子のイオン化の数学的記述、関連して束縛状態の時間周期的な摂動のもとでの安定性・不安定性が問題である。これらは抽象作用素論、調和解析あるいはマルチスケーリング法、断熱近似法など様々なアプローチ・研究手法によって研究されているが, いずれも解決にはほど遠い。2021年度はこれらの手法を概観するため「時間周期量子力学系の数理」に関する本を執筆することにした。これもコロナの収束が前提であるがこの問題に関する共同研究のため11月にミュンヘン大学のSiedentop名誉教授、ワルシャワ大学のDerezinski教授を招聘して共同研究を行うことを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの蔓延により国内外の研究集会あるいはセミナーなどの開催がほとんどすべて中止されるか、ズームなどのネットによる開催に変更された。また共同研究のために予定していたモンゴル、デンマークへの訪問、あるいはSiedentop教授やGaltbayar教授の招聘も入国制限や出国制限のため中止せざるを得なかった。このように内外研究者との研究交流のための旅費として計上した予算の未使用が次年度使用額が生じた理由である。この次年度使用額は(コロナのワクチンの接種が政府の予定通りであれば)、令和3年9月下旬から10月中旬にオールボーグ大学(デンマーク)ならびにボン大学を訪問し、研究集会に出席・講演を行うとともにJensen教授、Cornean教授、 Michelangeli教授との共同研究を行うための旅費、 あるいは11月以降にミュンヘン大学のSiedentop教授、 ワルシャワ大学のDerezinski教授、モンゴル国立大学のGaltbayar教授を招聘し共同研究を行うための旅費として使用する予定である。また国内の移動における感染の危険を感じないようになれば課題に関連した研究集会に出席、また学習院大学において研究を行うための旅費に使用する予定である。
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