研究実績の概要 |
本研究では,生物の形態形成のうち,細胞の分裂や運動などの動態を計算可能なモデルとして有名なVertex Dynamics Model(VDM)のエネルギー汎関数の最小化問題に対して,数学的にアプローチすることで,計算の精度や高速性を高める研究をしている.これまでの研究で,細胞を表現する頂点に対して摂動を与え,その変分を計算する方法と,常微分方程式の一つの解法である埋め込み型ルンゲ・クッタ法を併用することで計算の高速化が可能であることを示してきた. まず,研究の成果の1つとして,エネルギー汎関数を厳密な形で評価可能な計算テクニックを考案することができた.これまでも,エネルギー汎関数の評価は,頂点のx,y,z成分ごとに手計算を行えばできたことではあるが,その場合,計算の見通しが立たず,計算結果の解釈も困難であった.そこで,VDMにおいて,ベクトル値関数を引数とするような計算方法に関して予めいくつか公式を作成しておき,その公式群を利用することで,VDMの汎関数を簡便に求める方法を構築した.この方法のもう一つの利点は,計算結果の解釈が容易かつ,幾何学的意味もスッキリと見通せることであった. また,連携研究者の佐藤純氏(金沢大学),林貴史氏(金沢大学)とともに,本計算結果に基づいたVDMの大規模な数値計算を行い,計算の実用性,高速性を実証することもできた.なお本成果は論文誌Current Biologyにおいて”Tiling mechanisms of the Drosophila compound eye through geometrical tessellation, Takashi Hayashi, Takeshi Tomomizu, Takamichi Sushida, Masakazu Akiyama, Shin-Ichiro Ei, Makoto Sato”として2022年に出版されている.本論文では数値計算はC++でプログラミングされたが,主要な計算ルーチンに関しては別途ヘッダファイルにまとめられ,申請者のHP(http://www3.u-toyama.ac.jp/akiyama/)から誰でも利用できるようにしてある.
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