研究課題/領域番号 |
19K03614
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
稲葉 寿 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (80282531)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 基本再生産数 / 感染症数理モデル / SIRSモデル / 年齢構造 / 世代発展作用素 / 閾値条件 |
研究実績の概要 |
[1] これまで,筆者は一般的な時間的変動環境における個体群増殖の閾値条件を考察して,世代発展作用素のスペクトル半径が,一般変動環境における基本再生産数を与えることを示してきた.一方,このような基本再生産数が,時間依存非線形系の解の安定性の指標になっているかどうかは,線形化安定性原理がないために明確ではなかった.そこで,時間依存システムの解発展作用素に対応する発展半群を考えれば,もとのシステムのゼロ解や周期解は,時間変数を含む拡張された状態空間における自律系の定常解としてとらえられることに着目して,発展半群を解作用素とする自律系に対する線形化安定性原理によって,変動環境における非線形系に対して,個体群の絶滅と存続に関する基本再生産数の閾値性を明らかにした(J. Math. Biol. 79, 731-764, 2019). [2] 感染症において,一度回復した個体が,その免疫性を時間とともに減衰させて感受性集団に再帰する場合は,SIRSモデルとして定式化されるが,これまで年齢構造を考慮したSIRSモデルの定性解析は,SIR型モデルに比較して困難であり,不十分であった.SIRS型感染症は,力学系としてはの定性的にSIR型感染症と似ているが,ワクチンによる制御はずっと困難であり,可制御性の閾値(再感染閾値)が存在することが実践的には大きな違いである.本研究では,エンデミック定常解が,R0>1においてのみ現れ,分離混合の仮定の下で|R0-1|が十分に小であれば,前方分岐したエンデミック定常解は局所安定であることを示した.また,R0>1の場合は,基礎的な力学系が定める半流が一様に強パーシステントであることを示した.また数値計算によって,再感染閾値の出現を示した(Math. Biosci. Eng. 16(5), 6071-6102, 2019).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
[1] 基本再生産数の一般理論に関しては,発展半群理論にもとづいて,非自律系を時・状態空間における自律問題として扱うことで,基本再生産数の閾値性を変動環境において確立することができた.すなわち,時間変動環境における個体群力学系に関しては存続と絶滅の閾値が基本再生産数によって与えられるという一般的原理は,線形系のみならず,非線形系においても,かなり一般的な状況で成立することが示された.今後は,エンデミックな時間依存解の持続性や安定性にどのような含意があり得るか,また従来の意味で線形化のできない一次同次系への拡張が可能かどうかが課題である. [2] SIRSモデルについては,年齢構造モデル基本的解析をおこなうことができた.今後の方針で述べるように,個体レヴェルでの感染の履歴の影響(免疫性の減衰とブースト)を考慮したモデルへの拡張と考察が課題となる.
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今後の研究の推進方策 |
[1] 感染症の再帰的流行を考える場合,個体の抗病原性という意味での免疫性の減衰とブーストというメカニズムは基本的に重要な役割を果たす.その様な現象をとりいれたSIRS型感染症モデルとしてAronによるモデルを取り上げ,年齢構造化モデルとして再構成したうえで,その数学的性質を明らかにすることを予定している.予備的な研究とそして,ブーストによる免疫状態におけるローカルタイムの任意時刻へのリセットが可能なようにモデルを拡張して,エンデミック定常解の分岐を調べ,後退分岐の可能性を示唆する結果を得ている. [2] Thieme (2017) は,線形化のできない一次同次の非線形作用素に対して,基本再生産数と類似の指標を提案して,それが個体群の絶滅と持続の閾値になることを離散時間モデルで示した.一次同次非線形性は両性人口モデルや性的感染症モデルにおいて基本的に重要であるから,連続時間モデルへの拡張を考察して,基本再生産数理論のさらなる拡張を図る.まず自律的問題を考察し,その後時間依存の一次同次システムにおける基本再生産数理論を考察する. [3] 現在世界的なパンデミックとなったcovid-19流行の数理モデルによる予測と抑制対策研究は緊急の課題であり,かつ数学的にも興味深い問題を提起してきている.主に日本の流行状況を対象として,流行の予測や感染状況を理解し,より効果的な介入手段を検討するための数理モデル開発をおこなう.
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通りの支出となったが,本年度は人件費・謝金での支出がなかったために,若干の予定とのずれが生じた.しかし全体として,おおむね計画通りの支出であり,次年度使用額はわずかであり,予定の支出のなかで,自然に吸収される範囲であると考えている.
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