研究課題/領域番号 |
19K03634
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
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研究分担者 |
村川 秀樹 龍谷大学, 理工学部, 准教授 (40432116)
富樫 英 神戸大学, 医学研究科, 助教 (90415240)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 界面ネットワーク / パターン形成 / 上皮細胞 / 位相変化 |
研究実績の概要 |
昨年度の研究実績は,界面ネットワークのダイナミクスを実現する数値スキームの開発とその生物現象への応用という2点である. 細胞パターンの形成を見据えた界面ネットワークモデルでは,比較的に多くの細胞があり,隣同士が入れ替わるという位相変化が頻繁に起きる特徴がある.最近提案された近似スキームを出発点とし,これらの特徴を効率よく,そして正確に処理する数値解法を開発し,ライブラリを構築した.その際,次の新しい要素を組み込んだ:(1)それぞれの界面の性質が異なってもかまわない:これにより数種類の細胞が形成するパターンのシミュレーションが可能となった,(2)界面の性質が時間と共に変化してもよい:これにより生物現象で肝心となる非平衡系が表現可能となった,(3)細胞領域の連結性が保たれるという位相制約を実現:これにより実際の現象で許されない細胞分裂を回避できた,(4)最適化理論で知られているアルゴリズムを適用して細胞の体積が保存されるという制約条件を実現:これにより計算コストを大幅に削減できた. この数値スキームを細胞組織におけるパターンの形成メカニズムの解明に用いた.パラメータの数が最低限となるような数理モデルを立て,生物学の研究分担者が提供した観測データを基にパラメータの値を決定して,シミュレーションを行った.他のアルゴリズムでも再現できているような基本的なパターンを再現しただけではなく,これまで困難とされた感覚器官上皮のパターンも再現できた.感覚器官ではサイズが著しく異なる数種類の細胞が複雑な位相変化を繰り返しながらパターンを形成するため,新しい数値スキームを用いることで初めて再現に成功した.さらに,このシミュレーションを通して,上皮のパターン形成においてカドヘリンやネクチンといった接着分子が決定的な役割をもつという生物学的に重要な事実を示唆した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究実績は,界面ネットワークのダイナミクスを実現する数値スキームの開発とその生物現象への応用という2点があり,当初の研究計画に沿った進捗である. 細かいところでは,予定より遅れている部分と予定より早い部分がある.例えば,数値スキームの理論的な解析が課題として残っているのに対し,研究期間の後半に予定していた生物現象の理解への応用はすでに結果が出ている.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は当初の研究計画に沿って推進する.次の1年間では,とくに双曲型運動の解析および界面ネットワークと化学物質の反応拡散系の連成問題の解析に集中する. 最近の考察では,双曲型運動は細胞パターンでは重要ではないという事実が見えてきたが,他の応用も考えられるので,予定通り研究を進める.まずは,単純化した三叉路の問題を取り上げ,境界条件により連立される非線形な波動方程式系に帰着する.このような境界値問題の既存結果が乏しいため,不動点定理の適用で現れる線形化問題に対しても新しい基礎理論を構築する必要があると思われる.位相変化を含む問題設定は非常に難しく,先行研究がなく,研究期間を通して吟味の対象とする.双曲型数値計算スキームの構成は,準備しているMBO双曲型アルゴリズムを接合点,位相変化や体積保存条件に対応できるものに拡張し,数学解析に基づいた誤差評価など数値解析を行う. また,界面ネットワークと化学物質の反応拡散系の連成問題の数値的な解析を行い,数値計算ライブラリを作成する.化学的な場が界面から影響を受けないモデルと,界面が場の発展の境界条件を与えるStefan 型モデルという2 種類のモデルを考え,三叉路の基本設定から始めて,その解析を行う.生物学における具体的なモデルの構築は,研究分担者と海外の共同研究者を交えて議論がすでに進行中である.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナヴィルスの関係で出張ができなかったため,残った金額があります.次年度の出張回数を1つ増やして消費する予定です.
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