研究課題「ニューラルネットワークに対する幾何学的力学系理論」の研究を日本学術振興会 基盤C(一般)の支援を得て行った。 ニューラルネットワークの数理的機能の解明は、機械学習分野の進展や脳の機能解明にとって重要であり、更に歴史的に力学系理論との関連も深い。一般に、力学系の振舞いを解明するための理論的方法には様々なものがあり、その一つに幾何学的力学系理論と呼ばれる体系がある。この幾何学的理論は、発達した微分幾何学の手法を力学系理論に持ち込み、力学系の解析に役立つ。ニューラルネットワークを力学系理論のアプローチで扱う際、今までの研究においては、この幾何学的力学系理論適用の視点が抜けていた。本研究の遂行により、ニューラルネットワークの力学系としての理解、特に微分幾何学を用いた記述法とその応用の進展が期待できる。 (1)本研究課題と密接な関係にある機械学習分野の、特に最適化問題の高速数値解法の設計に関する論文をある学術雑誌へ投稿した。 (2)本研究で用いている接触幾何学の手法が、統計物理学での未解決問題である準安定状態を有する系の緩和過程の記述に適していことが2022年に発見された。その成果は数理物理学の論文としてまとめられ、2022年度内の出版となった。また、幾何学の物理学への応用に関心がある研究者が集まる研究集会で講演を行った。 (3)イスラエルにあるテルアビブ大の数学者と共同研究を2022年度から行うことになり、(2)に密接に関係する研究を行なった。具体的には、準安定状態を有する熱力学系の非平衡状態を記述する、接触ハミルトニアンを具体的に構成し、既存の非幾何学的な方法との相違を示した。この成果は2022年度中にある学術雑誌から出版された。
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