研究課題/領域番号 |
19K03636
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
関根 順 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (50314399)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 後退確率微分方程式 / XVA / 後退確率差分方程式 / 結晶格子 / マルコフ連鎖近似 / 歪曲確率 / 時間整合性 |
研究実績の概要 |
1)金融実務での重要課題の一つであるOTCデリバティブのXVA算出に関して、BSDE(Backward Stochastic Differential Equation: 後退確率微分方程式)を用いた理論的な見地から既存アプローチを整理し、さらに無裁定条件の吟味や漸近展開を用いた近似計算をおこない、実務で用いられるXVAとの関係を明らかにした。成果は田中章宏氏(三井住友銀行/大阪大学)との共著論文にまとめた(Math for Industry, Springerに採択済みで刊行予定)。 2)状態変数が多次元のMarkov型確率微分方程式で与えられたMarkov型BSDEの数値解法に関して、結晶格子を状態空間に持つ離散時間マルコフ連鎖を用いた後退確率差分方程式で近似するアプローチを考案した。このアプローチは、離散時間近似解が行列に関する線形計算などを用いて明示的に計算できる利便性を持っている。現在、その連続時間・連続状態BSDEへの収束スピードを理論的に調べており、ランダムウォークで近似できる定数係数確率微分方程式モデルについて結果を得た(論文準備中)。これは、Briand et al. (2019, arXiv) で1次元モデルについて得られた結果の多次元版への拡張となっている。 3)行動経済学で提示された非線形な「歪曲確率」を多期間・連続時間モデルに展開してゆく試み、特に「時間整合性」を限定的に実現するモデルの解析について、Ma, Wong, and Zhang (2018, arXiv)の結果の発展を試みた。得られた限定的な結果は、指導教官を務めた共同研究者山田貴一氏の修士論文にまとめられた。この先、条件付歪曲期待値と後退確率差分方程式や後退確率微分方程式との関連が明らかにできれば興味深い。 4)雑誌「応用数理」にBSDEに関するチュートリアル記事を連載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・XVAに関してBSDEを用いた理論的アプローチで知見を蓄えることができた。 ・多次元の状態変数を持つBSDEの数値解法について、結晶格子上のマルコフ連鎖を用いるという利便性の高い離散化手法を考案した。 ・条件付き歪曲確率の時間整合性という新しい問題に関心を持ち研究に着手した。今後BSDEとの関連が明らかになると興味深い。 ・深層学習手法を用いた高次元状態変数を持つBSDEの数値解法について、既存研究のサーベイや数値シミュレーションの実施等を行い知見を蓄えている。 ・雑誌「応用数理」でBSDEに関するチュートリアル記事をまとめる中で、BSDEの数値解法に関するアプローチのサーベイなどを行い知見を蓄えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
1)結晶格子上のランダムウォークやマルコフ連鎖を用いた離散後退確率差分方程式のBSDEへの収束スピードを調べる研究を発展させる。特に、離散時間有限状態マルチンゲールがブラウン運動に収束するスピードを調べるために、Wasserstein距離の計算やマルチンゲール中心極限定理の精密化の研究を進める予定である。 2)深層学習手法を用いたBSDEの数値解法の研究を推進させる。特に、離散時間連続状態を持つ後退確率差分方程式を深層学習手法で近似するアルゴリズムの構成やその収束スピードの理論的評価に関する研究を実施する予定である。 3)動的な歪曲確率モデルの時間整合性とBSDEとの関連についての考察や、(必ずしも時間整合性を持たない)動的なリスク尺度とBSDEの関係性についての考察を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
・主催者としてオーガナイザーに加わっていた国際研究集会が新型コロナ感染症の影響で中止になり、それに合わせて招へいする予定だった海外研究者の旅費・滞在費が全てキャンセルとなった。 ・高性能PCを購入予定だったが、これも新型コロナ感染症の影響を受けた別予算で購入することとなった。 ・元々ある程度次年度に繰り越す予定であった。 ・2020年度は大学院生をRA雇用する予定。
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