本研究の目的は、ポスト量子暗号の代表的なものの一つである多変数公開鍵暗号が基づく連立代数方程式の求解問題の計算困難性の評価及び関連する代数的アルゴリズムについてその計算量的困難性の評価を与えることである。 今年度も昨年度に引き続き、多変数公開鍵暗号が基づく連立代数方程式の求解問題の計算困難性の評価のため、代表的な解法の一つであるグレブナー基底計算アルゴリズムについて、その改良と高速実装に取り組んだ。グレブナー基底計算の中でも高速な実装方法の代表的なものとしてF4アルゴリズムやM4GBアルゴリズムと呼ばれるものがあり、これまでそれらの解析と高速実装について検討を行ってきた。最終年度である今年度は特にM4GBアルゴリズムについて、最適と考えられる多項式選択について検討を行った。M4GBアルゴリズムでは多項式データのサイズが大きくなる傾向にあるため、そのデータサイズを出来るだけ大きくならないような工夫もついても検討を行った。評価すべきパラメータ設定としては、多変数多項式暗号の安全性評価に関する国際的なコンテストである Fukuoka MQ Challenge で使われているタイプの入力をランダムに生成したものを用いた。また、これまでは暗号方式向けのパラメータであったが、今回は署名方法のパラメータを用いた。グレブナー基底計算の実装で検討が必要な個所としては、多項式の項順序、S多項式と呼ばれる多項式の計算、多項式の選択方法があるが、この中でも多項式の選択部分について考察を行った。一般的に知られている多項式選択だけでなく、これまでのF4の改良として考察していた提案手法も含めてその効果を調べた。結果、標準的な手法と比較すると40%以上の効率化に成功した。但し、今回の実装は実時間ではなく、単項簡約と呼ばれる多項式の割り算の回数で評価を行っている。また、その効果に対する理論的な考察も行った。
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