研究課題/領域番号 |
19K03642
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小林 景 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (90465922)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | データ解析 / 機械学習 / Wasserstein距離 / グラフ埋め込み / 単語分散表現 |
研究実績の概要 |
本年度の研究成果としては,まず正規分布の場合のエントロピー制約付きのWasserstein距離を具体的に導出し,そのいくつかの重要な性質を証明した共著論文を発表し,学術雑誌Entropyに採録されたことがあげられる.Wasserstein距離はKullback-Leiblerダイバージェンスなどの従来統計学で用いられていた距離やダイバージェンスと異なり,データの空間の距離情報を直接的に用いるため,機械学習等の勾配法によるアルゴリズムへの応用が注目されている.一方,ソフトウェアを用いた計算においては,エントロピー制約を付けることによりSinkhornアルゴリズムを用いることが可能となり,計算量は大幅に減少することが知られている.これまでは,こういった計算の簡便さのためだけに用いられてきたエントロピー制約付きWasserstein距離について,その理論を構築し,統計的有効性を実験的に示したという点で,本研究の成果は非常に重要である.また,(エントロピー制約付き)Wasserstein距離の距離空間は曲率を持つ空間であり,その曲率がデータ解析に与える影響や有効性を評価するための基盤となる理論を構成することができた. また,計量錐を用いたグラフ埋め込みによるデータの階層構造の抽出手法を提案し,共著論文をarXivプレプリントとして公表した.本研究以前も,空間の負曲率性を用いたグラフ埋め込手法として,Poincare埋め込みやLorentzモデルが提案されていたが,計量錐を用いたグラフ埋め込みは全く新しい手法であり,計量錐の曲率を調整することにより,より精度良く階層構造を反映した埋め込みが可能であることを実験的に示すことに成功した.また,その埋め込みの一意性に関する定理を証明し,提案手法の理論的妥当性も示すことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データ空間の幾何学的特徴や曲率を生かしたデータ解析に関する研究成果を,共著論文として執筆および出版できたことで,研究および成果の発表については順調に進行しているといえる.一方,Covid-19の影響もあり,海外渡航先での共同研究を予定していた周期的構造をもつデータの解析については当初の予定通りの研究はできない部分もあった.以上を総合して,全体としておおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
来年度は最終年度であるため,今後の研究の発展につながるような研究を優先して行う他,これまで得られた成果を会議等で積極的に発表する機会を設ける.また,Covid-19の影響で予定より遅れていた海外の研究者との共同研究テーマに関しても,遅れを取り戻して成果につなげるよう重点的に研究を遂行する.また,本年度新たに研究テーマとしてとりあげ成果をあげたWasserstein距離やグラフ埋め込み,単語埋め込みなどのテーマについても,他の専門家との情報交換を進め,研究を深めていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はCovid-19の影響で予定していた出張が全て無くなったため旅費が未使用となり,またワークショップ等の開催でかかる人件費が未使用となった.そのため,本年度に中止となった出張において期待されていた成果の発表や研究者同士の情報交流のために旅費を使用する予定である.また,本年度は計算機の使用もオンラインを中心とした使用となったため,新たな計算機を計算する物品費は抑えられた.一方,来年度は今年度に購入を控えていた計算資源の購入等のために物品費を使用する予定である.
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