細菌集団の自己組織化のマルチレベル数理モデルを求めて、一細胞の状態制御、細胞集団動力学、細胞密度場、という3つのレベルの数理モデルを構築し、そしてそれらを結ぶマルチレベルモデリングの方法論を構築することを目指している。異なる細胞状態の制御が関わっていて、かつマクロな秩序形成と密接に結びついているものとして、細菌バイオフィルムのライフサイクル生成を研究した。このライフサイクルの本質をもつ単純なモデルとして、枯草菌の同心円状コロニーの形成を調べた。枯草菌は多様な細胞タイプを取ることができるが、その中でも、運動タイプと基質産生タイプがコロニー構築において交互に支配的になり、ライフサイクルが生成される。そこで本研究では、特にこれらの細胞タイプ間の制御と関連する遺伝子群の制御ネットワークおよびそのダイナミクスを記述する数理モデルを構築していた。培養実験と合わせて、細胞集団の状態制御の数理モデルを構築し、数値的および数学的な解析を行ってきた。これにより、ライフサイクルの生成の有力なメカニズムを提示してきた。前年度までに計2種類のマルチレベルモデリングの手法を構築できた。今年度はこれらのマルチレベルモデリングの理論整備を進めた。特に、自己密度シグナルに基づくマルチフェーズモデルについて階層的に整理し、不均一な集団に対して広く適用できるようにした。実際の現象・実験状況に対応する環境設定および時間・空間スケールによって、適切な簡略化ができる。今後は、これまで問題の複雑さのために限定的にしかできていなかった数学的な解析も期待される。
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