研究課題/領域番号 |
19K03646
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
矢久保 考介 北海道大学, 工学研究院, 教授 (40200480)
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研究分担者 |
小布施 秀明 北海道大学, 工学研究院, 助教 (50415121)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 複雑ネットワーク / フラクタル / 長距離次数相関 |
研究実績の概要 |
令和元年度ではまず初めに、長距離次数相関を記述する同時確率を用いることで外因性と内因性の長距離次数相関を区別する一般的方法を提案した。外因性長距離次数相関とは隣接次数相関によって誘起される遠隔ノード間の次数相関であり、ネットワークが本質的な意味での長距離次数相関(内因性長距離次数相関)を有するか否かを判別するには、これらを区別する必要がある。本研究では、外因性長距離次数相関のみを示すネットワークに対する同時確率関数の一般的関数形を明らかにすることで、この判別を行う手法を開発した。現実のネットワークが外因性または内因性のどちらか一方の長距離次数相関を有することはなく、両者の性質を併せ持つ。本研究では、長距離次数相関がどの程度内因的な要因で生じているかを定量的に示す指標を提案し、多くの現実ネットワークに対してこの指標を計算した。その結果、フラクタル性を持つと考えられているネットワークは、非常に強い内因性長距離次数相関を有することが明らかとなった。その研究成果は欧文学術誌に公表された。次に、この確率関数を使ってハブ・ノード間の反発相関の強さを定量化する指標Uを提案した。この指標はハブ間反発が強ければ小さな値を持つ。本研究では多くの現実の複雑ネットワークに対して指標Uの計算を行い、Compact-Box-Burning法に基づくフラクタル解析の結果と比較した。これにより、フラクタル性を有する複雑ネットワークには、長距離に渡るハブ間の反発相関があることが明らかとなった。このことは、ハブ間の長距離反発がフラクタル性発現の必要条件であることを示している。さらに、従来は単に高次数ノード同士の反発相関のことを「ハブ間反発」と呼んでいたが、どの程度の次数を持つノードがどの程度の強さで反発しあうかによって、ノード間の反発相関がネットワーク構造に与える影響は質的に異なることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の主要な目的は、フラクタル複雑ネットワークと長距離次数相関の関係を明らかにした上で、ハブ同士の長距離に渡る反発傾向がフラクタル性発現の起源となり得るか否かを明らかにすることである。令和元年度の研究では、外因性と内因性の長距離次数相関を区別する一般的手法が開発された。この手法の開発は研究計画当初は予定していなかったものであるが、現実ネットワーク構造の多様性を認識する過程で、本研究遂行のために必要不可欠な研究であることが判明した。前年度までの研究で導入された同時確率関数とこの手法の組み合わせにより、様々な複雑ネットワークに発現する多様な長距離次数相関の性質を定量的に評価するための数学的準備が完了したことになる。この道具立てを用いることで、研究計画の予定どおり、ハブ間の長距離反発がフラクタル性発現の必要条件であることが明らかとなった。当初の計画以上に進展しているもう一つの研究成果は、「ハブ間反発」という性質の多様性の発見である。本研究では、初期ネットワークに対して各ノードの次数を変えず指標Uを小さくするようなランダムなエッジの繋ぎ替えを十分な回数行ったネットワークの構造を調べた。その結果、どの程度の大きさの次数を持つノードがどのくらい強く反発するかによって形成されたネットワークの構造が質的に変わることが明らかになった。この結果は、ハブ間反発という性質が一意的でないことを意味しており、「ハブ間反発がフラクタル性を発現させるか」という命題そのものが曖昧であることを示している。そのため、次年度以降にはフラクタル性に結び付いたハブ間反発のタイプを系統的に分析する必要がある。以上の研究内容から、当初の目的が達成されたのみならず、申請時には予定していなかった「内因性長距離次数相関強度の定量的評価」ならびに「ハブ間反発における多様性の発見」など、研究は予定以上に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度の研究により、これまで一義的な意味を持つと考えられてきた「ハブ間反発」という性質には多様性があることが示された。一方で、何らかの意味でのハブ間反発が、複雑ネットワークにおけるフラクタル性発現の必要条件であることも判明した。したがって、フラクタル性発現に対してハブ間反発が十分条件となるか否かを明らかにするためには、フラクタル性と直接結びついたハブ間反発のタイプを解明する必要がある。そのためには、スケールフリー性やクラスター性などを自由に設定できるフラクタル複雑ネットワークの数理モデルを用いて系統的な研究を行う必要がある。しかしながら、フラクタル複雑ネットワークの数理モデルはこれまでに2種類しか知られていないため、このような系統的研究の遂行を困難にしている。そこで令和2年度の研究では、まずフラクタル・スケールフリー・ネットワークの一般的な数理モデルを構築する。ユークリッド空間に埋め込まれた通常のフラクタル構造モデルと同様に、イニシエーターの各エッジをジェネレーターによって置き換える操作を繰り返すことによってそのようなモデルを構築することができると考えられる。次に、構築されたモデルによって作られる様々なネットワークの構造的性質(クラスター係数、スケールフリー性指数、フラクタル次元、パーコレーション臨界点、長距離次数相関の同時確率、およびハブ間反発指標)を解析的に計算する。その上で、ネットワーク構造がどのような種類のハブ間反発指標を最小化すると得られるかを系統的に調べる。さらに、これらのネットワークのエッジをランダムに繋ぎ替えた後、当該タイプのハブ間反発指標Uを最小化することで元のフラクタル・スケールフリー・ネットワークが得られるか否かを数値的に調べる。初期のネットワーク構造が再現されれば、フラクタル性発現に対してハブ間反発が十分条件であることになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
出席を予定していた日本物理学会が新型コロナウィルス感染拡大防止を理由に中止となったため、旅費に残額が生じた。
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