前年度までの研究では、単一ジェネレーターを用いた逆繰り込み操作により生成されるフラクタル・スケールフリー・ネットワーク(FSFN)の数理モデルを構築したが、令和3年度の研究では複数ジェネレーターによるエッジの確率的置換操作で得られるネットワークのフラクタル次元、スケールフリー指数、クラスター係数などの構造的特徴量を解析的に計算した。これにより、現実ネットワークのフラクタル性が、幾つかの小さなモティーフによる再帰的置換成長によっても生じ得ることが明らかになった。また、このモデルによるネットワークにも強い内因性長距離次数相関がある事を数値的に示した。さらに、本モデルによるネットワーク、自己組織化臨界性を有するモデルにより形成されるネットワーク、および現実のFSFNに対してマルチフラクタル解析を行ったところ、FSFNは構造自体がマルチフラクタル性を有すること、すなわちフラクタル次元の異なる複数の局所構造によってネットワークが構成されていることを明らかにした。 本研究の目的は、複雑ネットワークにおけるトポロジカルな意味でのフラクタル性と各ノードの隣接ノード数(次数)同士の相関との関係を明らかにした上で、ユークリッド距離が定義されないネットワークにおけるフラクタル性発現の機構を解明することであった。3年間の研究の結果、複雑ネットワークのフラクタル性は自己組織化臨界性に基づく機構と小さなモティーフの再帰的置換による機構の少なくとも2つのメカニズムがある事が明らかになった。また、これまで定性的理解しか得られていなかった長距離次数相関の概念を定量化することにより、いずれの機構により形成されたFSFNであっても、ハブ間が遠く離れるという内因性長距離次数相関が見られることを解明した。本研究により、複雑ネットワークのフラクタル性と長距離次数相関の関係が初めて明らかになったことの意義は高い。
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