研究実績の概要 |
昨年度投稿した熱源の温度が連続的に変化する熱機関サイクルの不可逆効率に関する論文が受理され、Physical Review Research誌から出版された。本成果ではスターリングエンジンを含む一般の有限時間(非準静的)熱機関サイクルの不可逆効率を、熱力学的長さと呼ばれる散逸の最小値に関連する量を用いて上から抑えることができることを示した。これはカルノーの定理の複数熱源・有限時間への自然な一般化になっており、理想スターリングサイクルのような等温過程を含む二温度エンジンの優位性を明らかにするとともに、今後様々な応用が期待される。
上記の仕事では熱源の温度と系のハミルトニアンに含まれるパラメータを変化させる非準静的過程を扱ったが、外部から(ピストンに)外力をかけて平衡状態を変化させる際の熱力学的応答も考えられる。この際の応答は示量的な変数(内部エネルギーや体積)であり、アインシュタインの揺らぎの公式を応用することで、非準静的な応答係数やその際の散逸を定式化した。本成果については現在論文を投稿中である(Y. Izumida, arXiv:2301.12116)。
また、二つの低温度差スターリングエンジンが結合した際の熱効率を線形不可逆熱力学によって解析し、シンクロが熱効率・仕事率に与える影響を定式化した。結合強度を変えていった際の熱効率の分岐図にはヒステリシスが現れるなど力学系の観点からも興味深い振る舞いをすることも明らかにした。現在論文を投稿中である(S. Yin, H. Kori, and Y. Izumida, arXiv:2302.11308)。
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