最終年度である本年度は、2本の論文(非準静的応答係数と熱力学的長さ・散逸の関係および結合低温度差スターリングエンジンの同期解析)が受理され、それぞれJ.Phys. Commun.誌とPhys. Rev. Research誌からオープンアクセスの形で出版された。前者は非自律的な熱機関の散逸の定量化へ適用できる熱力学幾何学と関連した基礎的な結果であり、今後さらに低温度差スターリングエンジンのような自律熱機関への応用を検討できる余地がある。また後者は二つのエンジンの同期メカニズムによって熱効率を増大させることができることを数理的に示しており、工学的にも意義のある結果であると考えられる。
研究期間全体を通じて、主に(1)低温度差スターリングエンジンの温度差と負荷トルク(熱力学的力)と熱流・角速度(熱力学的流れ)の間の準線形応答領域における線形関係式の導出、(2)(1)に基づく低温度差スターリングエンジンの最大熱効率、最大仕事率時の熱効率の定式化、(3)N92型低温度差スターリングエンジン(Kontax)のホモクリニック分岐シナリオの実験的検証、(4)非自律熱機関における階層的なOnsager係数の導出、(5)熱源の温度が連続的に変化する場合の熱機関の不可逆熱効率の定式化、(6)非準静的応答係数と熱力学的長さ・散逸の関係、 (7)結合された低温度差スターリングエンジンの熱効率図におけるヒステリシスの発見、などの結果を得ることができた。 これらの成果は、理論・実験的に、また直接・間接的にも低温度差スターリングエンジンの物理の理解と制御技術につながるものと期待できる。
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