研究課題/領域番号 |
19K03654
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
吉村 和之 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (40396156)
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研究分担者 |
土井 祐介 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (10403172)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 非線形格子 / ポテンシャル対称性 / 弾道的熱輸送 / 平面波 / 厳密解 / ウムクラップ過程 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、固体のミクロスケールでの熱伝導過程、特に熱抵抗が生じるメカニズムを、1次元非線形格子モデルを用いて理論的に解明することを目的としている。研究計画では、第1段階で、ポテンシャル関数に対称性を備える格子モデルを構成し、この格子モデルが熱抵抗の無い極限であることを検証する。さらに、熱輸送を担う波動モードの同定を行う。第2段階で、この格子モデルにおける局在モードによる熱輸送波の散乱特性を調査する。第3段階以降で、対称性を備える格子モデルを出発点とし、対称性を徐々に壊したとき熱抵抗が生じる過程を調査する。2019年度は、上記の第1段階に相当する部分を実施した。 ポテンシャル対称性を備える格子モデルPISL(Pairwise Interaction Symmetric Lattice)の存在は、我々の既存研究により示されていたが、これまでは、モデルに含まれる多数の未知パラメータ値を数値計算により求める必要があった。今回、それらパラメータ値の解析的表式の導出に成功した。これは、当該モデルを利用し易くし、今後の研究の加速につながる成果である。 また、PISLでは熱抵抗が無い弾道的熱輸送が生じることを、非平衡分子動力学シミュレーションにより検証した。さらに、熱エネルギー輸送波同定の基礎とすべく、PISLと、その無限粒子への拡張モデルの数学解析を行った。その結果、厳密な単一モード平面波解の1パラメータ族を発見した。これらの解は、熱エネルギー輸送波の候補となるものである。 従来、ウムクラップ過程と呼ばれるフォノン相互作用過程が、熱抵抗の主要因と考えられてきた。しかし、この仮説の直接的な検証はなされていない。PISLを変形することにより、ウムクラップ過程を含まない非線形格子モデルを構築した。これは、計算機シミュレーションによる上記仮説の直接検証を可能とする成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の当初計画は、以下の項目(1)~(3)であった。(1)PISLが熱抵抗の無い極限の格子モデルであり、以後の研究の出発点となることの検証。(2)平衡分子動力学(MD)シミュレーションによる熱輸送波動モードの同定。(3)PISLにおける局在モードによるフォノン散乱特性の数値的解析。 項目(1)については、計画通り実施し、当初予想していた結果が得られた。結果の一部については、国際会議NOLTA2019での発表も行った。さらに、計画外の成果として、PISLモデルの解析的表式を得ることができた。この結果も国内研究会にて発表した。 項目(2)については、平衡MDシミュレーションの実施が完了しなかった。しかしながら、PISLの数学解析を行い、熱輸送波動モードの可能性がある厳密解を発見することができた。これは、計画外の成果である。国際会議NOLTA2019と国内研究会にて発表した。 項目(3)については、予定の作業実施に至らなかった。 上記(3)に関して当初計画からの遅れを生じたが、(1)と(2)については、ほぼ計画通り実施し、さらに計画外の成果を得ることができた。また、(1)~(3)以外に、ウムクラップ過程を含まない非線形格子モデルを構築することができた。これは、熱伝導物理学における仮説を直接検証可能にする重要な成果である。以上を踏まえ、現状について「おおむね順調に進展している。」と総合的に判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に、ウムクラップ過程を含まない非線形格子モデル(UFL, Umklapp-free lattice)を構築した。当該モデルは、当初計画の対象外であるが、ミクロスケールでの熱抵抗メカニズムの解明において重要な役割を果たすモデルと考えられる。よって、UFLの解析を課題として追加し、今後の研究を推進する。 まず、UFLに関し、非平衡MDシミュレーションにより熱伝導特性を調査する。PISLと同様に熱抵抗ゼロが予想され、この点を検証する。さらに、単一モード平面波の厳密解を探求する。次に、PISLとUFLの両モデルについて、単一モード平面波解をヒントとしながら、平衡MDシミュレーションによる熱輸送波動モードの同定を進める。 熱輸送波動モードの同定作業と同時に、定在型局在モードによるフォノン散乱特性の数値的解析を進める。ポテンシャル対称性が在る場合(PISL,UFL)から調査を始め、対称性を徐々に壊したときに生じる現象を調査する。ここまでを2020年度目標とする。フォノン散乱で熱伝導特性を十分に説明できないと判断した場合、当初計画通り定在型局在モードによるソリトン散乱特性の調査に進む。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費については、値引きにより物品費が当初予定額より少なかったため。旅費については、打ち合わせのための出張の予定変更のため。当該助成金は、次年度の物品費、打ち合わせ旅費の一部として使用する。
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