研究実績の概要 |
本研究は、固体におけるミクロスケールでの熱抵抗発生メカニズムの理論的解明を目的として実施した。以下の1~5の成果を得た。1)ポテンシャル関数に対称性を備える2種類の特殊な非線形格子モデル(Pairwise Interaction Symmetric Lattice(PISL),Umklapp-Free Lattice (UFL))を構成した。2)PISLについて、熱抵抗≒0を数値計算で示した。3)UFLについて、熱抵抗=0を数値計算で示した。UFLが有するポテンシャル対称性が、熱抵抗消失に関わることを明らかにした。この結果は、熱抵抗に関するPeirelsの仮説「非線形格子のフォノン相互作用において、Normal過程のみ存在しUmklapp過程が無い場合には熱抵抗が消失する」を、原子ダイナミクスに基づき検証した初めての結果である。4)PISLとUFLにおいて、非線形性により変調を受けたフォノンが熱エネルギー輸送波であることを数値的に同定した。5)PISLとUFLにおける局在モード(Discrete Breather, DB)によるフォノン散乱特性を明らかにした。 以上に加え、当初計画外の成果として、Fermi-Pasta-Ulam-Tsingou格子に対して、対称単一パルス型および多パルス型のDB解の存在証明を与えた。 2022年度は、上記の項目5について研究を実施した。DBにフォノンを入射した時の透過率と反射率を数値的に調査した。PISLでは、フォノンがDBで反射せずほぼ完全に透過すること、および、対称性の破れに伴い透過率が減少することを明らかにした。DBによるフォノン散乱と熱抵抗の関連を示唆する結果である。UFLについては、フォノンが殆どDBを透過しないことを明らかにした。本結果は、国際会議NOLTA2023で発表した。
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