最終年度は、2重パレート分布という確率分布の一般化に取り組んだ。 2重パレート分布はサイズが大きい側と小さい側の両方でベキ乗則がみられる確率分布で、ブログの投稿間隔や給料など、社会における様々な分布として現れることが確認されている。数学的には、2重パレート分布は、幾何ブラウン運動の観測時刻が指数分布にしたがう場合に現れる分布であることが知られている。このモデルの一般化として、観測時刻を指数分布以外の確率分布に替えた場合の解析をおこなった。特に、観測時刻が一様分布にしたがう場合に、確率密度関数および累積分布関数を導出した。最終的な式の形は誤差関数という特殊関数を含み、2重パレート分布より複雑で、ベキ乗則はみられない。この結果から、2重パレート分布におけるベキ乗則は幾何ブラウン運動(対数正規分布)と指数分布のバランスにより成立していると結論される。この研究成果は、査読付き英文学術誌Journal of Statistical Mechanics誌に掲載された。また、観測時刻をガンマ分布などに一般化する解析結果も論文の投稿へ向けて準備を進めている。 本研究課題では、乗算的な確率過程に「可変下限値」や「観測時刻の確率分布」などの条件を導入したモデルに対して、確率密度や累積分布の厳密な計算をおこなった。研究課題名には「人口分布」が含まれているが、研究した確率モデルは人口に限らず幅広い社会的な対象の分析にも適用可能であると期待できる。
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