研究実績の概要 |
2次元の格子点に配されたスピン状態による視覚的情報と統計物理学による相転移の解析を結びつける解析手法として, スピン配置を頂点および頂点どうしを結ぶ線で記述したグラフ表現を用いた実空間くりこみの方法を開発した. 実空間くりこみの方法とは, 例えばとなり合うスピンの状態が同じ状態であれば, それを1つのスピンとみなすような粗視化の方法である. 粗視化をくりかえし行うことで相転移の解析, 例えば臨界点における磁化率の発散, などの解析を行うことができる. 従来の手法と今回開発したグラフ表現を用いた手法との大きな違いはグラフ表現を用いた手法は系の大域的情報が取り入れられる点にある. 粗視化を行う点の近傍のみを見て粗視化を行う従来の手法でも系の相転移を調べることは可能であったが, その粗視化手法の根拠については必ずしも明らかではなかった. グラフ表現を用いた今回の手法は, グラフのフラクタル的性質を保ちながら粗視化を行っていく手法であり, 粗視化手法の根拠が明らかにされている点についても従来の方法とは異なっている. 上記の手法の開発と並行して, 機械学習を用いた相の判定も行なっている. スピン配置を用いた相の判定はすでに先行研究があり, 相転移温度よりも高温の無秩序相, 低温の秩序相の判定が可能なことは知られている. 我々は, スピン配置ではなく, 上述のグラフ表現を用いた相の判定を行った. その結果, スピン配置を用いた先行研究と同等の結果を得たほか, 量子スピン系への拡張も行い, 量子スピンの状態が虚時間軸に形成する世界線に対する機械学習から, 量子スピン系の相転移についても相の判定が可能であることを示した.
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今後の研究の推進方策 |
グラフ表現を用いた実空間くりこみの方法の数値的応用を進めるとともに, 実空間くりこみの方法の本質的理解に繋げる解析的研究も行う. グラフ表現を用いた機械学習の方法は, 視覚情報と統計物理学を結びつけるほかに, 機械学習がなぜ画像解析を上手にこなすことができるかという疑問にも結びついており, こちらも並行して研究を進める.
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