研究課題/領域番号 |
19K03660
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
河原林 透 東邦大学, 理学部, 教授 (90251488)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | トポロジカル構造 / 非整数電荷 / カイラル対称性 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、秩序パラメータのボルテックス構造といった2次元トポロジカル構造に付随する非整数電荷の普遍性を、精密な数値計算によって明らかにし、その実験的観測可能性に対する提案を行うことを目指している。特に、カイラル対称性の拡張としての、傾いたディラック粒子系への拡張を、代表者が提案してきたハミルトニアンの代数的変形を通じて実現し、非整数電荷の普遍性を議論する点が1つの特色となっている。 初年度は、こうした代数的変形によって生成される格子模型の検証を、実験的な実現性を念頭に行ったところ、近年冷却原子系で実験的に実現されている1次元のトポロジカルな模型(Su-Schrieffer-Heeger模型)においても、代数的変形によって、カイラル対称性を拡張すると、フラットバンド系を含む、興味深い系を生成することができることがわかった(学会発表、論文執筆中)。その中で、変形された系では、バルクのトポロジカルな性質を反映して、系の両端にトポロジカルな端状態が現れるが、対称性の破れに対する安定性が左右の端で異なるという、変形前のカイラル対称な系では見られない新しい性質が現れることが判明した。さらに、変形によって生成される系は、有効的に梯子系になるが、長距離ホッピング等は現れないことから、冷却原子系での実現可能性も十分あると考えられ、今後、実現可能性を検討し、実験への提案につなげていきたいと考えている。。 こうした研究と並行して、2次元のトポロジカルな秩序変数として、量子化されたベリー位相の研究を進め、2次元カゴメ格子上の強相関スピン系において、量子化されたベリー位相が局所的な秩序変数として有用であるとの結果を得た(学会発表)。これは、今後の2次元トポロジカル構造の一般化において、重要な知見となると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ディラック粒子系の一般化という観点からはあまり興味を持たれなかった系においても、ハミルトニアンの代数的変形により、フラットバンドを含む興味深い系が生成されること、そうした系が非整数電荷や独特のトポロジカルな性質を持つこと、また、そうした系の冷却原子系等での実験的な実現が見込まれることなどから、今後の発展が十分に期待できると考えられるため。
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今後の研究の推進方策 |
現在、1次元系においてトポロジカル系の代数的変形によるカイラル対称性の拡張と端状態、非整数電荷等に関する理論の枠組みを完成しつつあるので、これを完成させた後、こうした、従来のカイラル対称性はないが、一般化されたカイラル対称性を持つような1次元系での非整数電荷の普遍性の確認を数値的に行う。その結果を踏まえ、本来の研究目的であった、2次元系のボルテックス構造に伴う非整数電荷の拡張へと研究を進める。今年度の1次元系での成果から、カイラル対称性の一般化としての代数的変形の適用が、ディラック粒子系に限らず、他の系においても興味深い系を生み出す可能性が考えられるので、幅広い模型に対して、対称性の拡張を行うことを計画している。2次元系では、Kernel Polynomial法等を活用して、大規模な系で精密な数値計算を実行することにより、非整数電荷等を高精度で数値的に評価する。そして、1次元で得られた知見と比較しながら、一般化されたカイラル対称性のもとでの、2次元系のトポロジカル構造に伴う非整数電荷の普遍性、特に、ランダムネスや格子欠陥に対する安定性を、詳しく解析する。 数値計算の遂行と並行して、一般化されたカイラル対称性をもつトポロジカルな系が、冷却原子系やフォトニック結晶といった、近年トポロジカル系として注目されている実験系で実現可能かどうかを、実験グループとの議論をもとに具体的に検証していくことも計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度参加を見込んでいた2次元電子系に関する国際会議が延期となったため、次年度に旅費等として有効に活用するために繰越を行った。繰越分と合わせて、次年度は、主に、研究発表及び情報収集のための国際会議、国内学会等への参加経費、研究発表用のノートPCや数値計算データ保存のための記憶デバイス等の物品に使用することを計画している。
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