研究実績の概要 |
トポロジカル欠陥に伴う非整数電荷の研究は、1次元のソリトンに付随する非整数電荷の研究に端を発し、グラフェンの発見により、2次元ディラック電子系へと研究が進められてきた。本研究では、2次元系において、Kernel Polynomial 法を用いて、局状態密度を十分大きな系で高精度で求めることにより、有効理論に頼らずに、非整数電荷の値を正確に評価し、ランダムネスの効果やディラック・コーンの傾きに対する普遍性を数値的に検証した。模型としては、冷却原子系で実現が期待されている、非可換ゲージ場を持つ2次元格子模型を採用した。この系は、内部自由度を利用したハミルトニアンの代数的変形により、カイラル対称性を保ったまま傾いたディラック粒子系を実現できるという特徴を持つ。この系にダイマー秩序のトポロジカル欠陥(vortex)を導入し、それに付随する電荷の値を高精度で評価した。その結果、電荷の値は、内部自由度が2の場合、全体としては分数とはならないが、vortexの巻きつき数と同じ値の整数値に量子化されること、また、その整数電荷は、カイラル対称性を保存するランダムネスやディラック・コーンの傾きには依存しないことを明らかにした。さらに、staggered potential を加えて、カイラル対称性を破った場合の非整数電荷の値は、内部自由度あたりに換算すると、内部自由度のない場合の結果(T. Kawarabayashi et al., Annals of Physics 435, 168440)と同様に有効理論とよく一致した。この結果は、カイラル対称性さえ保存していれば、こうした非整数電荷は幅広い普遍性を示すことを示唆している。内部自由度を増やし、フラットバンドが存在する模型に対しても研究を進め、カイラル対称性があれば、フラットバンドの存在が電荷の値にほとんど影響しないことも明らかにした。
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