研究課題/領域番号 |
19K03662
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
田中 秋広 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, グループリーダー (10354143)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | LSM定理 / 半古典有効作用 / SPT状態 / 位相的場の理論 / ゲージ理論 |
研究実績の概要 |
トポロジカルな物質相(正確にはトポロジカル絶縁体に代表されるような「対称性に保護されたトポロジカル相」)の理論的判定手法として威力を発揮しているLieb-Schultz-Mattis(LSM)の定理の一連の数学的操作の意味を、量子スピン系の低エネルギー有効場の理論として物性物理学でなじみの深い「トポロジカル項(シータ項)を持つ非線形シグマ模型」の枠組みの中で、自然な形で捉え直せることを確認した。なお、後者の理論は適切な極限でトポロジカル項に支配される位相的場の理論(TQFT)と見なせることがFradkin等により示されている。このため本研究は(1)これまで不明であった、LSM定理とトポロジカル項を持つ半古典的有効理論の二つのアプローチの関係を明らかにすることに加え(2)LSM定理とTQFTの間のより一般的なリンクの存在を示唆するものと位置付けられる。具体的には次の方法で解析を行う。LSM定理やその押川による一般化はハミルトニアン形式で行われるので、上記有効理論を正準形式で量子化する。これは場の理論の量子化であるため、波動関数は場の汎関数となる。このとき、有効作用のトポロジカル項は形式的に電荷とゲージ場の結合項を誘起する。そのため、同種の仮想ゲージ場を導入する押川の議論とほぼ並行に解析をすすめられる。その際、ゲージ変換の下での波動汎関数の位相の変換(これについてZhang, Ziman, Schulzによる先駆的研究を援用できる)を追跡することにより、系のエネルギースペクトルやトポロジカル秩序についての情報を得ることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画では初年度において、物理がよくわかっている量子スピン鎖をテストケースとして取り上げ、LSM定理と半古典有効作用、さらには有効作用の適切な極限としての位相的場の理論の間の関係を確認することを目標に設定していた。それは概ね達成された。ただし、初年度に本研究の共同研究者の異動があったことも関係して、予備結果の学会発表はしているものの(2019年の日本物理学会年会の講演)、論文は準備中である(ほぼ完成している)。さらに年度後半に予定していた国際会議での成果発表は、新型コロナウィルス感染症の流行により参加が不可能となったことにより、成果の公表に関してやや遅れがある。しかし以下述べるように見通しは概ね良好と考えている。Zhang, Ziman, Schulzによる有効作用のシュレーディンガー表示での解析、LSM定理の仮想的ゲージ場を導入しての押川による一般化など、重要な先行研究の間のリンクが自然な形で得られたことにより、より広範な系を対象に同様の議論が行えるものと考えている。また最近、向き付け不能な多様体上の位相的場の理論を用いてトポロジカル相の特徴付けを行う提案がいくつか出されているが、本研究においても、有効作用が位相的場の理論に移行する極限ではこれと同様の状況に帰着することが分かってきておりこのつながりをさらに明確にしたい。
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今後の研究の推進方策 |
実績概要にある一次元量子系の解析を、より非自明な高次元系(二次元系、三次元系)に一般化する。有効理論が記述する物理系は最も直接的には二次元、三次元の量子スピン液体であるが、例えばDemler等の先行研究に基づき強相関電子系の超伝導体状態の有効理論などもこの枠組みで記述されることを示すことができ、適用範囲は広い。波動関数のゲージ変換のもとでの性質は一次元系の場合、モノポール調和関数(球の中心に置かれたディラック磁気単極子の影響下で球面上を運動する荷電粒子の固有状態)で記述される。高次元ではこの一般化を行う必要があり、二次元ではYangによる5次元球面上のSU(2)モノポール調和関数が援用できる。これを基に系の置かれた多様体のトポロジーに依存した縮退度が得られ、量子エンタングルメントやトポロジカル秩序に関する情報を抽出できるものと予想できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の共同研究者二名が年度中に異動し、共同研究促進の目的に使用する予定であった計算機費用、招へい費用などを執行できなくなった。さらに新型コロナウィルス感染症の流行により海外研究会に参加できなくなった。未使用額は、今年度の秋と年明けに開催される二つの研究会の参加費用(ただしそのうち一つはリモート会議)、国内の共同研究者の招へい、計算機の購入に使用し、情勢に影響を受けずに実行できるよう注意を払いながら、本課題の推進と成果公表に活用する計画である。
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