(1)計画に沿った順当な研究と(2)予想しなかった発展とがあった。前者(1)では、Lieb-Schultz-Mattis(LSM)の定理のプロトタイプである一次元反強磁性ハイゼンベルグ模型への適用を、半古典理論(トポロジカル項を含む非線形シグマ模型)の立場からいま一度精査した。LSMの議論で中心的な役割を果たす境界条件のひねりが、スピン系の代表的な相互作用であるジャロシンスキー・守谷(DM)相互作用の印加と形式的に等価なこと(但し相互作用の大きさを特定の値に固定する必要がある)、更にDM相互作用は連続体理論の物質場(交替磁化ベクトルの場)にベクトル的なゲージ場を結合したものと見なせることを用いて、見通しの良い定式化を得た。さらにこの枠組みにおけるLSMの議論に「向き付け不能な時空多様体上においたことに対するスピン系の応答」という幾何学的解釈が可能であることも確かめられた。前年度までの研究と併せると、近年盛んに展開されている「量子異常」に基づくトポロジカル相の(抽象性の高い)解析を、より物理的な議論と明確に結びつけることができた。(2)ところで上述のDM相互作用が磁性体にもたらす物性は、二次元系におけるスカーミオン励起生成をはじめ、多くの注目を集める。しかしそれは主にスピンを古典的な自由度として扱った帰結で、量子効果が生む変化はほとんど知られていない。そこで一次元の強磁性量子ハイゼンベルグ模型にDM相互作用と磁場を加え、ソリトンが生成される状況を作り、数値的・解析的に詳しい研究を共同研究者と実施した。その結果、磁化過程や、基底状態の結晶運動量が、スピン量子数が整数か半整数かに応じて定性的に変わることを初めて見出した。反強磁性体のハルデインギャップ現象に類似性が高く、トポロジカルな量子物性の新規の発展方向を示唆する成果と考えている。
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