研究課題/領域番号 |
19K03663
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
森 史 九州大学, 芸術工学研究院, 助教 (90525891)
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研究分担者 |
岡田 崇 国立研究開発法人理化学研究所, 数理創造プログラム, 上級研究員 (10741043)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 複雑ネットワーク / 数理生物学 / 情報流 / ブーリアンネットワーク / 環境適応 |
研究実績の概要 |
遺伝子制御系やニューラルネットワーク系などの生物ネットワークが、効率的な情報伝達をどのように実現しているのかという問題は、生物学のみならず物理学としても非常に興味深い。近年、情報処理を担う生体内の様々なネットワークが網羅的にデータベース化されつつあるが、本研究は、理論的アプローチにより、環境に適した情報出力を可能にしているネットワークの特徴を明らかにするために、複雑ネットワーク上の情報の流れに対する理論を構築することを目的としている。これらの系の記述には、各素子がON とOFF の2状態を取るブーリアンネットワークモデルが適しているので、ブーリアンネットワーク上の移動エントロピー(Transfer Entropy)に対する解析的アプローチが存在すれば、情報伝達に有利なネットワークシステムの特徴が明らかになると考えられる。しかし、ブーリアンネットワークの状態空間は極めて広大であるため、従来の一般的な方法で移動エントロピーを解析的に求めるのは非常に困難であった。また、形式的な行列計算では、生成される情報流と背後にあるグラフ構造との関係性はこれまで不透明であった。 本年度、我々は、確率的ブーリアンネットワークにおける移動エントロピーをグラフに基づいて摂動展開する理論の開発に成功した。これにより、行列計算等の数値的手法に頼ることなく、非常に良い精度で解析的に移動エントロピーを計算することができるようになった。今後、生物ネットワークの解明のみならず、複雑ネットワーク上の情報流に対する物理的な理解が深まることが期待される。この成果は、Physical Review Research に掲載された。また、日本物理学会においても発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
任意のネットワークトポロジーに対して成立する情報流の理論構築を行うのは、大変に難しく思われ、まずは平均場近似によってアプローチしていくというのが当初の計画であった。しかし、平均場近似を足掛かりにせずとも、任意のネットワークに適用可能な理論を完成させることができ、論文発表まで達成できたことは、非常に順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの理論開発の成功により、情報流に対するグラフ展開が極めて有効な手法であることが明らかになった。グラフ展開を実現するために、バイアスのない環境シグナルを扱ってきたが、これは任意の種類のシグナルに一般化できるのではないかという見通しが立ってきた。シグナルの一般化が成功すれば、現実の生物情報処理系への適用可能性が大きく広がり、より大きなインパクトが与えられることが期待される。理論を応用して、生物現象に迫っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際会議や国内会議での発表のための旅費を使うことがなかったため、次年度使用額が生じた。今後の発表のための旅費、もしくは、オンライン発表のための環境整備に使用する計画である。
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