遺伝子制御系やニューラルネットワーク系などの生物ネットワークが、効率的な情報伝達をどのように実現しているのかという問題は、生物学のみならず物理学としても非常に興味深い。近年、情報処理を担う生体内の様々なネットワークが網羅的にデータベース化されつつあるが、本研究は、理論的アプローチにより、環境に適した情報出力を可能にしているネットワークの特徴を明らかにするために、複雑ネットワーク上の情報の流れに対する理論を構築することを目的としている。これらの系の記述には、各素子がONとOFFの2状態を取るブーリアンネットワークモデルが適しているので、ブーリアンネットワーク上の移動エントロピー(Transfer Entropy)に対する解析的アプローチが存在すれば、情報伝達に有利なネットワークシステムの特徴が明らかになると考えられる。しかし、ブーリアンネットワークの状態空間は極めて広大であるため、従来の一般的な方法で移動エントロピーを解析的に求めるのは非常に困難であった。また、形式的な行列計算では、生成される情報流と背後にあるグラフ構造との関係性はこれまで不透明であった。最終年度は、期間全体の集大成として、ネットワークモチーフの情報転送の特徴を明らかにし、論文にまとめ、物理学の国際誌上に発表することができた。研究期間全体を通して、ネットワーク上の情報流を記述する理論を構築することから始まり、それをさらに一般化することに成功し、一般性の高い理論を最後にまとめることができた。
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