研究課題/領域番号 |
19K03664
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
引原 俊哉 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (00373358)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ランダム量子スピン系 / フラストレート量子スピン系 / 実空間繰り込み群法 / テンソルネットワーク |
研究実績の概要 |
ランダムネスとフラストレーションをもつ反強磁性量子スピン系における新奇量子状態の研究を行った。このフラストレート・ランダム反強磁性量子スピン系については、近年、二次元格子上の系において、これまでのランダム系で知られている状態とは性質の異なる、新しいタイプの非磁性無秩序相の出現が示唆され、注目されている。2019年度の研究において、我々は、ジグザグ梯子格子上のランダム反強磁性相互作用をもつハイゼンベルグ量子スピン系に対して、厳密対角化法と密度行列繰り込み群法を用いた数値的解析を行い、このジグザグ梯子系においても、ランダムネスが強い場合において、二次元格子上の系と同様の、新奇非磁性無秩序相が実現されることを明らかにした。この結果は、今回注目している新奇非磁性無秩序相を実現するための最小条件を示唆するものであるとともに、新奇状態を調べるためのminimal modelを提示するものとして、今後の研究の発展を大きく促進するものと言える。 また、ランダム量子スピン系を調べるための数値的手法である、拡張実空間繰り込み群法の研究も行った。本手法については、ランダム系の基底状態を表現するツリー状テンソルネットワークの構造を最適化することで、計算精度が改善されることが分かっている。2019年度の研究では、このツリー状テンソルネットワーク構造の決定に用いる指標について、複数の候補を試行し、様々な格子上のランダム反強磁性量子スピン系における性能評価を行うことで、各系に最適なアルゴリズムを特定した。この結果は、本手法を用いたランダム量子スピン系の解析の精度向上に寄与するものと期待され、2020年度以降の本課題研究の遂行に大きく資するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度の研究における最も重要な成果は、これまで二次元フラストレート・ランダム反強磁性量子スピン系でのみ出現が示されていた新奇非磁性無秩序相が、準一次元ジグザグ梯子格子上のランダム反強磁性量子スピン系でも実現されることを発見したことである。二次元フラストレート格子模型の数値解析が極めて困難であることに比べると、ジグザグ梯子格子模型の解析は比較的容易であることから、このジグザグ梯子格子模型を用いて新奇非磁性無秩序相を調べることができるという今回の知見は、新奇非磁性無秩序相の特性解明を目的とする本課題研究を大きく前進させるものであると言える。 また、拡張実空間繰り込み群法の改良も大きく進展した。特に、本課題の研究対象である新奇非磁性無秩序相はランダムネスが強い場合に実現されるが、そのようなパラメータ領域の解析に最適なアルゴリズムが特定できたことは、本研究の遂行に寄与する結果である。フラストレート・ランダム量子スピン系を解析する数値計算手法の確立は、本課題の補助事業期間前半の目標としていたが、その達成について、本課題研究一年目で一定の目途が付いたことは、予定以上の進展と言える。 以上の結果を勘案し、2019年度の研究進捗状況を「(1)当初の計画以上に進展している。」と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究成果を発展させる。具体的には、ジグザグ梯子格子上のランダム反強磁性量子スピン系に着目し、その系で実現される新奇非磁性無秩序相の特性解明を行う。これまでの厳密対角化法、密度行列繰り込み群法による数値計算で得られている、基底状態相関関数やエンタングルメント・エントロピーなどの数値データを精査することで、新奇非磁性無秩序相における各種物理量の振る舞いを特定し、この相の低エネルギー状態を記述する物理的描像を確立する。さらに、2019年度の研究で改良した実空間繰り込み群法のアルゴリズムを用いた解析を行うことで、より大規模な系の相関関数、基底状態total spinのシステムサイズ依存性等を調べ、新奇無秩序相を特徴づける繰り込み固定点の特性を明らかにする。 また、ランダムネスの効果を解析する模型の候補として、強磁性相互作用も含んだジグザグ梯子格子上の量子スピン系や、スピンの大きさがS=1/2より大きな場合の系なども視野に入れた研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス対策として、複数の研究会および研究打ち合わせの出張が中止となったため。次年度使用とした予算は、研究に用いる計算機増強や研究環境の整備、学会・研究会における研究発表のための出張旅費などに使用する予定である。
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