研究課題/領域番号 |
19K03664
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
引原 俊哉 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (00373358)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ランダム量子スピン系 / フラストレート量子スピン系 / 実空間繰り込み群法 / テンソルネットワーク |
研究実績の概要 |
ツリー型テンソルネットワークを利用したランダムスピン系向け数値計算手法である、tensor-network strong-disorder renormalization group method (tSDRG法、拡張実空間繰り込み群法と同義)を基礎とした、テンソルネットワーク法の開発を行った。tSDRG法でツリー型テンソルネットワークを構築した後に、ネットワークを構成する繰り込み行列(isometry)を順次最適化するアルゴリズムを開発・実装し、基底状態波動関数の計算精度を向上させることに成功した。さらに、基底状態波動関数のエンタングルメント構造を利用してツリー型テンソルネットワークの構造自体を最適化するアルゴリズムも開発・実装し、ランダムスピン系を含む様々な系に対して適用することで、基底状態変分計算の精度向上が実現できることを明らかにした。この結果は、ランダムスピン系の数値計算手法という枠を超えて、テンソルネットワーク法一般における新しいアルゴリズムを提唱するものとして、大きな意義をもつ研究成果であるといえる。現在は、これらの新手法の改良・整備を行うとともに、ジグザグ梯子格子上のランダム量子ハイゼンベルグ模型への適用を進めている。 また、最近接強磁性相互作用と次近接反強磁性相互作用にランダムネスを含んだ、磁場中量子ハイゼンベルグ強磁性フラストレート鎖に対する解析を行い、この系の磁化過程に対するランダムネスの効果についても調べた。これまでに、ランダムネスにより引き起こされる磁化曲線やマグノン束縛エネルギーの変調などに関する数値データが得られており、現在も解析を実行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の研究における最大の成果は、ツリー型テンソルネットワークの構造自体の逐次・反復的最適化を可能とするアルゴリズムを開発したことである。このアルゴリズムは、ランダムスピン系に限らず、一般の量子多体系に対して適用可能な、新しいツリー型テンソルネットワーク数値計算手法であり、当該分野の研究の発展に大きなインパクトをもつ成果であると言える。 また、最近接強磁性相互作用と次近接反強磁性相互作用にランダムネスを印加した、ランダム強磁性フラストレート鎖の磁化過程の解析も、本研究課題の顕著な進展として挙げられる。この解析は、これまでに得られている強磁性フラストレート鎖の実験結果と理論予測の間の齟齬を解消する可能性をもち、今後の進展が期待されるものである。 以上の結果は、2021年度当初の想定を上回る進展と言える。対して、年度当初に予定していたジグザグ梯子格子上のランダム量子スピン系の解析については、従来のtensor-network strong-disorder renormalization group法から、本年度に開発した新手法を用いた解析への移行を行ったため、研究の取りまとめには至らず、2022年度への繰り越しとなった。この点も踏まえて、現在までの進捗状況を「(2)おおむね順調に進展している」と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究では、2021年度に開発した、ツリー型テンソルネットワーク最適化アルゴリズムの改良・整備を行う。本アルゴリズムは、基礎的部分はほぼ確立しているが、最適ネットワーク探索ルーチンなどに改善の余地があり、交換モンテカルロ法などで使用されている既知のアルゴリズムを援用するなどの方策により、更なる計算効率の向上が見込まれる。さらに、本アルゴリズムをランダム系に限らず様々な量子多体系に適用し、その計算効率を評価することで、従来のtensor-network strong-disorder renormalization group法の範囲を超えた、新しいテンソルネットワーク法として発展させる。また、本成果を論文・研究会発表として、適宜公表する。 さらに、ジグザグ梯子格子上のランダム量子スピン系、および、磁場中ランダム強磁性フラストレート鎖の基底状態特性に関する解析も行う。前者については2021年度に開発した新手法の適用を、後者については密度行列繰り込み群法を用いた数値計算を、それぞれ想定している。これらの問題については、2021年度までに実施した研究による知見・数値データが蓄積されており、それらの結果と合わせて、研究成果として取りまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度も新型コロナ対策による研究会・研究交流のオンライン化が継続されたため、主として旅費・研究会参加費が未使用となり、次年度使用額が生じた。ただし、2021年度末ごろから、研究会等の現地開催が再開され始めている状況を鑑み、2022年度の予算については、研究会参加・研究打ち合わせのための旅費としての使用を計画している。
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