フラストレーションとランダムネスを含んだ量子多体系の高精度解析を可能とする数値計算手法の研究を行った。具体的には、ツリー型テンソルネットワークによる波動関数の記述を利用した手法であるテンソルネットワーク強乱雑繰り込み群(tSDRG)法を基礎として、テンソルネットワーク法の開発・改良を行った。研究期間前半には、tSDRG法に含まれるツリー型テンソルネットワーク構造決定アルゴリズムに着目し、繰り込みスピンブロックのエネルギー準位やブロック間エンタングルメントなどの指標を用いた改良アルゴリズムを提案した。期間後半には、ターゲットとなる量子多体状態のエンタングルメント構造に合わせてテンソルネットワークの構造を最適化するアルゴリズムを開発・実装した。これらの手法を相互作用にランダムネスなどの複雑な空間構造をもつ様々な量子スピン系に適用することで、ネットワーク構造最適化が効果的に実現されることを実証した。これら一連の成果は、量子状態のエンタングルメント構造に着目したネットワーク構造の最適化という、テンソルネットワーク法一般に適用可能な理論的指針を与える結果として、大きな意義をもつものである。 また、フラストレート・ランダム量子多体系における新奇量子状態の研究として、フラストレート・ランダムシングレット(FRS)状態の解析を行った。1次元ジグザグ梯子格子上のランダム反強磁性量子スピン系の研究を行い、これまで2次元以上の系で発見されていたFRS状態が、この系でも実現されることを示した。さらに、スピン相関関数の距離依存性、各種物理量の有限温度特性や、低エネルギー状態の微視的描像を解析することで、FRS状態の特性を明らかにした。これらの成果は、フラストレーションとランダムネスにより引き起こされる新奇量子状態に関する新たな知見を与えるものであり、当該分野研究に大きな進展をもたらすものと言える。
|