研究課題/領域番号 |
19K03668
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
南 和彦 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 准教授 (40271530)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 格子模型 / 厳密解 / free fermion / 伝送行列 |
研究実績の概要 |
本研究課題で扱われている手法で対角化される一連の模型の特別な場合であるtransverse Ising模型は、Ising相互作用にtranverse磁場をかけた単純であるが基本的な量子スピン模型である。Ising相互作用とtranverse磁場との非可換性から量子効果が現れる。1次元でスピン1/2の場合については、厳密解が得られる以前にFisherが零磁場のtransverse帯磁率を求め、その後、KatsuraそしてPfeutyが自由エネルギーを求めた。スピン1/2の場合の1次元transverse Ising模型はfree fermionに帰着されて解ける模型で、またスピン1/2の場合については、1次元transverse Ising模型と2次元正方格子Ising模型とが等価であることが分かっている。
この模型について、一般のスピンSでは厳密解はまだ得られていないものの、零磁場の帯磁率および周期的なあるいはランダムな相互作用を持つ場合の帯磁率が導かれている(Minami, 1996年, 1998年, 2013年)。これらはいずれも最近接の相互作用のみを持つ模型である。
この模型の次近接相互作用のある場合について、一般のスピンSでの零磁場のtransverse帯磁率を厳密に導出した。帯磁率の導出の鍵になるのは伝送行列であるが、次近接相互作用を伝送行列で扱うことができたためにこの導出が可能になった。帯磁率は低温の極限でSに依存せず、相互作用が特定の値をとるとき、温度T→0の極限で1/Tの発散を示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
transverse Ising模型の一般のスピンSでの帯磁率については、1996年、1998年、2013年の論文で扱ってきたが、伝送行列の特性からその議論は相互作用が最近接の場合に限られると考えていた。今回、1965年のOguchiのアイデアを利用してその議論を拡張し、次近接相互作用を持つ場合の帯磁率を厳密に導出することが出来た。次近接相互作用を含んでも低温での普遍性はそのまま成り立ち、基底状態が転移を示す点ではT→0で帯磁率は発散を示す。この発散は、転移点で基底状態が極めて高い縮退を示し、その結果として基底状態の状態空間の中でのキューリー則が成立したものとして理解できる。
大阪大の磁性実験の研究者と議論したが、次近接相互作用のあるIsing鎖としては磁性物質としてはCsCoCl3などがあり、帯磁率の測定も可能であるようだ。
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今後の研究の推進方策 |
free fermionの構造を持つ可解模型は重要な模型を多く含み、その周辺に同じ構造を持ついくつもの系列が見られる。一方でスピンSのtransverse Ising模型はその自由エネルギーはまだ得られておらず、またfree fermionの構造を持つとは考え難い。今回の結果をひとつの手がかりとして、可解模型の系列のfree fermionからの拡張を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度も引き続き研究連絡や情報収集のための出張が難しく、学会もオンラインでの開催が多かったため次年度使用が生じた。対面での研究発表と議論など、研究計画のうち現在までにコロナでできなかった部分を実行し、研究費は適切かつ有効に使いたい。
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