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2022 年度 実施状況報告書

新理論解法に基づくNavier-Stokes乱流の高次揺らぎの解明

研究課題

研究課題/領域番号 19K03669
研究機関京都大学

研究代表者

松本 剛  京都大学, 理学研究科, 助教 (20346076)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2024-03-31
キーワード乱流の統計法則 / Euler方程式の散逸的弱解 / Onsager予想
研究実績の概要

方程式の解析解(厳密解)は、ほとんどの場合に物理現象を極端に単純化したものになる。この一方で、解析解の利点はその性質を詳細に調べることができる点にある。このため、現象とは大きくかけ離れているように見えても、解析解の研究を通じて物理現象を理解するための様々なアイデアが得られる。これが解析解の価値である。
本研究であつかう流体乱流のように時間、空間ともに激しく変化する現象でもそのような価値をもつ解析解があるだろうか? 近年、ある数学者達は斬新な理論解法を開発し、そのような価値を持つであろう解析解が得られた。この解は周期境界条件下の3次元非圧縮Euler方程式の非定常、非線形な弱解であり、エネルギー散逸を許容するという意味で、特に発達した乱流に近い性質をもつ。この解の数値シミュレーションを通じて乱流現象を理解することが本研究の目的である。
本研究で理解をめざす乱流現象の一側面は、乱流の多重スケーリング則である。今年度の実績は、昨年度に引き続いて数値シミュレーションのさらなる安定化をはかり、シミュレーションで得られた弱解の多重スケーリング性をより確実なものとしたことである。確かに、入力パラメータの一部の領域では、シミュレーション結果の多重スケーリング性が現実と類似のものとなるが、他の入力パラメータ領域では物理的に期待される性質が破れている結果が得られている。この結果がシミュレーションの数値的安定化による副作用であるのか否かの判定が今後の課題である。
さらに、本研究で得られたいくつかの洞察をもとに、減衰乱流のスケーリング則には対数補正があり得ることを示す研究やランダム環境下での非線形シュレーディンガー方程式の乱流状態が持ち得る多重スケーリング性の研究も行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

新理論解法は、反復法で弱解を構成する。この反復法の回数が多くなるにつれて、物理的な乱流の慣性領域に対応する領域がひろく発達して、スケーリング則が観測されるようになる。このため、反復法の回数を計算機のメモリが許す限り大きく取る必要がある。我々が現在利用できる計算機環境では、反復回数が5から6が限界である。この程度の回数においてもスケーリング則が観測されている。さらに、多重スケーリング性を支持する独立なデータが複数得られている。
この一方で、反復法においては、有限反復回数で得られた解のエネルギーが一定以上にならないことが要請される。もちろん、数学的にはこの要請が満たされるように設定できるが、数値シミュレーションでは難しい。つまり、慣性領域の発達を犠牲にすればシミュレーションでもこの要請を満たすことは可能であるが、それでは物理的な考察ができない。このため、現在までの妥協案として、反復法中に解のエネルギーをわずかにスケールして一定以上にならないようにしている。この妥協案が原因で、上記で観測されている多重スケーリング性がartefact として見えているとしたら問題である。そうでないことを示すことが残された課題である。

今後の研究の推進方策

前述した、反復法途中でおこなうエネルギーの人工的なスケーリングの影響を検証する方策として以下のものがある。スケーリングをせずに反復法が行えるパラメータ領域を探索し、その結果が多重スケーリング性を持つかどうかを調べる。さらに、数値シミューレションでは、新理論解法で保証される全ての入力パラメータで期待通りの動作をすることを求めなくても良いかもしれない。つまり、有限のメモリの制約のもとでの数値シミューレションの限界を評価することで、入力パラメータの範囲を同定することも考えられる。

次年度使用額が生じた理由

2022年度中に対面で参加予定の国際会議が3件あった。コロナウィルス対策は以前よりも緩和されたとはいえ、海外渡航のハードルは2023年1月頃まで依然として高かった。このため、イギリスでのもの、インドでのものにはハイブリッド参加となった。このため、旅費が不要となり次年度使用額が生じた。その使用計画は、今年度中に国際共同研究者との研究議論と論文作成のための議論、および同様のテーマの国際研究会に参加することで成果報告として使用する予定である。

  • 研究成果

    (11件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件) 学会・シンポジウム開催 (1件)

  • [国際共同研究] CNRS(フランス)

    • 国名
      フランス
    • 外国機関名
      CNRS
  • [国際共同研究] Leipzig university(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      Leipzig university
  • [雑誌論文] Two-time Lagrangian velocity correlation function for particle pairs in two-dimensional inverse energy-cascade turbulence2022

    • 著者名/発表者名
      Tatsuro Kishi, Takeshi Matsumoto and Sadayoshi Toh
    • 雑誌名

      Physical Review Fluids

      巻: 7 ページ: 064604-1-25

    • DOI

      10.1103/PhysRevFluids.7.064604

    • 査読あり
  • [学会発表] Physical insights from a numerical simulation of the dissipative Euler flow2023

    • 著者名/発表者名
      Takeshi Matsumoto
    • 学会等名
      Turbulence: Problems at the Interface of Mathematics and Physics, International Center for Theoretical Sciences, India
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 乱流シェルモデルの減衰則2023

    • 著者名/発表者名
      松本剛
    • 学会等名
      物理学会春季大会
  • [学会発表] Decay of small-scale localized turbulence2023

    • 著者名/発表者名
      Takeshi Matsumoto
    • 学会等名
      Turbulence: Problems at the Interface of Mathematics and Physics, International Center for Theoretical Sciences, India
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Physical Insights on Turbulence from Numerical Simulation of Dissipative Weak Solution to the Euler Equations2022

    • 著者名/発表者名
      Takeshi Matsumoto
    • 学会等名
      ICFD 2022, Institute of Fluid Science, Tohoku university
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Insights from numerical simulations of the dissipative Euler flow2022

    • 著者名/発表者名
      Takeshi Matsumoto
    • 学会等名
      Mathematical aspects of turbulence: where do we stand?, Issac Newton Institute, UK
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 小スケールに局在した乱流の減衰則2022

    • 著者名/発表者名
      松本剛
    • 学会等名
      日本流体力学会年会
  • [学会発表] 非線形シュレーディンガー方程式の可積分乱流における階層形成2022

    • 著者名/発表者名
      松本剛
    • 学会等名
      物理学会秋季大会
  • [学会・シンポジウム開催] Modeling of turbulent mixing in magnetohydrodynamics2022

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公開日: 2023-12-25  

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