最終年度は4つの論文を出版している。まず、周期的剪断を加えた粉体の力学的応答に関する研究である。ジャミング転移点近傍の粉体を含む非結晶粒子系は非線形応答を示す。従来の研究では、その非線形応答は粒子間の接触が変化する塑性変形が原因であるとされていたが、粒子軌道を詳細に調べた結果、そうした塑性変形なしに非線形応答が発生することを発見した。 さらに、そうした非線形応答に粉体粒子間の摩擦が与える影響を理論的に調べた。これまでの本研究課題において、そうした影響が力学的応答に与える影響は数値的に調べられていたのであるが、今年度はその振る舞いを定性的に再現する単純化したモデルを提案し、その応答を解析的に求めることに成功している。それらに加えて、摩擦のある粉体の弾性応答に対して、粒子配置で決定されるヘシアンの固有値との対応関係も理論的に考察している。 また、そのような粉体の非線形応答とは独立に、マクロな固体の摩擦に関する研究も行なっている。静止摩擦については古典的にアモントン則という法則が知られており、それによると最大静止摩擦係数は物体の形状や荷重によらないとされていた。しかし、有限要素解析を用いた連続体モデルの解析によって、弾性体の変形が影響するような状況ではその法則が破れ、最大静止摩擦係数が荷重と系のアスペクト比の減少関数となることを示した。また、その結果を簡略化したモデルの安定性解析によって調べ、その原因が系全体の滑りの前に発生する前駆滑りであることを理論的に示した。 本研究課題のおいては、粉体の力学的特性とマクロな変形・流動の解明という二つの研究を統合的に進める計画を立てていたが、期間全体において、それらの複合的な成果を得られたと考えている。最終年度の各研究もその視点に基づいた複数の結果が得られている。
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