研究課題/領域番号 |
19K03672
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
福本 康秀 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 教授 (30192727)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 電磁流体 / ネーターの第2定理 / 一般化されたビアンキ恒等式 / らせん渦管 / 風車後流 / 層流火炎速度 / 重力 / バルク熱損失 |
研究実績の概要 |
ネーターの定理によれば、変分原理において、粒子のラベル付け替え対称性に付随する保存量がトポロジカル不変量である。理想中性流体と理想電磁流体に対して、オイラー的位置の関数であるラグランジュラベルの変分を用いて、トポロジカル不変量はクロス・ヘリシティに限ることを証明した。非正準ハミルトン形式では、トポロジカル不変量はカシミール不変量で、クロス・ヘリシティに加えて、総質量、総エントロピー、および磁気ヘリシティがカシミール不変量に一致し、この4つの不変量を過不足なく用いて、理想電磁流体に対して南部括弧を構築した。これが誘導するポアソン括弧を計算し、欠落部分を補って完成させて、長年の懸案を解決した。ネーターの第2定理によれば、トポロジカル不変量の存在は支配方程式に冗長性があることを意味する。理想電磁流体方程式の間に成り立つ関係式である一般化されたビアンキ恒等式を導いた。 発電用風車後流はらせん渦管によってモデル化できる。我々が導出した有限太さの渦管の誘導速度を用いて、渦芯内の渦度分布が一様な場合とガウス型の場合の後流速度場を計算し、実験データと比較し、それぞれの場合において、渦中心間の距離とピッチの最適値を決定した。ガウス型渦度分布の方がより良い近似を実現する。 予混合燃焼の層流火炎速度に対する重力の効果を計算した。火炎速度は、厚さ数十ミクロンも反応層とそれをはさむサブミリの予熱層からなる薄い層状領域で、特異摂動法の一種である接合漸近展開法を用いて、反応項を含む熱伝導方程式と反応物質の拡散方程式の連立系を解くことによって得かれる。圧縮性があるとき、熱伝導方程式の右辺には圧力の時空変動項が含まれるが、通常は無視される。この項を通して重力の効果を取り込むことによって、バルク熱損失の効果が現れることを見出した。この効果を取り込んだ計算を実行し、重力によって火炎速度が減少することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理想中性/電磁流体に対する南部括弧の枠組みを構築してトポロジカル不変量を抜本的に活かし、クロス・ヘリシティをカシミール不変量として位置付けることに成功した。これは90年代の後半からの懸案の解決である。 予混合燃焼において、70年代からニュートンの経験則を用いたバルク熱損失のモデル化が行われて、それによる解析が盛んに行われて実験を説明してきた。しかし、ニュートンの経験則の起源は長らく不問に付されてきた。熱伝導方程式において、通常省略される圧力変動の項を通じて重力の効果を取り込むことによって、ニュートンの経験則に従うバルク熱損失項を導出することに初めて成功した。
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今後の研究の推進方策 |
3年間で、南部力学の形式を援用してトポロジカル渦度ダイナミックスを深めてきたが、仕上げの仕事が残っている。そして、それを踏まえた渦運動とその安定性の解析も次の段階が待っている。 南部力学形式おいては、現時点での形は冗長性が多いように思われ、独立変数の取り換えによって、冗長性のない究極の形を追求する。ハミルトニアンを任意関数にとることによって、トポロジカルな渦度ダイナミックスが実現できるが、ハミルトニアンをエネルギーにとることによって、トポロジカルダイナミックスからどのように中性/電磁流体のオイラー方程式が回復されるかの移行過程を数理に観察する。続いて、流体粒子の軌道変位と電流による等磁気循環攪乱の表現とそのオイラー方程式への移行過程を明らかにする。 圧縮性流体の速度不連続面の安定性については、速度不連続面を薄い有限幅の速度遷移層に正則化したとき、遷移層内部に現れる新たな不安定性について調べる必要がある。マッハ数が2.8を超えたときに遷移層外部で起きるKelvin-Helmholtz不安定性の消失との層内の不安定性との関連の追及が残された課題である。 予混合燃焼の層流火炎速度に対する重力効果については、流体の1次元オイラー方程式を満たす流速も含めた正確な圧力勾配を用いて、通常省略される圧力変動の項を通じて重力効果を取り込んだ熱伝導方程式を立てる。予熱・反応領域での熱伝導方程式・拡散方程式連立系のいわゆる燃焼率固有値問題の特異摂動法による漸近解析を遂行する。固有値問題の解から、重力効果による層流火炎速度の低下と重力による消炎条件を定量的に導く。
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次年度使用額が生じた理由 |
パンデミックによる海外渡航の禁止と国内移動制限により、重要な研究集会が中止されたり、共同研究者との研究打合せが大きな制約を受けた。国内出張を復活し、海外の研究集会(2022年11月、米国物理学会流体力学部門)へ参加して、有力/共同研究者との直接的な情報交換を行って、研究を加速させる。
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