非圧縮性流体においては、接線速度不連続面は必ずケルヴィン・ヘルムホルツ不安定性(KHI)を起こし、波状変形が発達する。増幅率は接線速度差に比例する。圧縮性にはKHIを弱める作用があり、接線速度差のマッハ数が√8を越えるとKHIが消失する。圧縮性流体と非圧縮浅水流の間には数学的類似がある。浅水流において、圧縮性気体の音波波に対応するのは重力波である。浅水流中の速度不連続面のKHIは、速度差が重力波の伝播速度の√8倍を超えると安定化する。浅水流中の速度不連続面を有限幅に正則化した、有限厚さの剪断層の安定性を計算した。剪断層内の攪乱はWhittaker関数を用いて陽に書き下すことができ、増幅率が高精度で計算できる。有限厚さの効果には、圧縮性によって安定化されたKHIを不安定化する効果があり、剪断層はすべてのマッハ数で不安定である。接線速度不連続面という特異なモデルは剪断層内部に巣食う固有の不安定性を覆い隠していると解釈できる。 また、圧縮性気体のKHIに対する重力および表面張力の効果を調べた。上側の流体が下側より軽い場合、重力は復元力として安定化に作用すると予想されるが、実際には、重力も表面張力も、圧縮性によって安定化されたKHIを不安定にする。圧縮性気体の速度・密度不連続面もすべてのマッハ数で不安定である。密度が連続でも、表面張力が働けばすべてのマッハ数で不安定である。
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