研究課題/領域番号 |
19K03674
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
香取 眞理 中央大学, 理工学部, 教授 (60202016)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 行列式点過程 / 多重シュラム・レヴナー発展 / ガウス型ランダム解析関数 / ガウス自由場 / パーマネント点過程 / ヤコビ・テータ関数 / 多粒子確率過程 / 超一様性 |
研究実績の概要 |
(1) 本研究課題のテーマの一つである行列式点過程(DPP:これは研究課題名にあるフェルミオン点過程と同義)は、ランダム行列(RM)統計集団の固有値として実現される他に、ランダムな解析関数の零点分布として実現される。後者の代表例は Peres と Virag (2005)による円板上のガウス型解析関数(GAF)の零点分布であり、これは共形変換共変性を有する。この 単連結領域上のGAFの、円環上への拡張を白井朋之氏(九大IMI)と行った。その結果、零点分布はDPPではなく、相関関数は行列式とパーマネントの積で表され、また、その相関核は相関関数の次数に応じて変形されることを見出した。円板から円環への拡張において、円環の内径と外径の比で定まる nome を持つヤコビ・テータ関数が重要な役割を果たすが、この nome とは別の変数も導入し、この系の特性が大変豊かなものであることを見出した。 (2) 越田真史氏(中央大学振PD特別研究員)との共同研究で、上半複素平面上、および複素第1象限上での多重シュラム・レヴナー発展(SLE)とガウス自由場(GFF)とが結合する条件を研究した。元来の単独 SLE を駆動する確率過程は系の共形不変性と領域マルコフ性から実軸上のブラウン運動とその時間変更に定まる。それに対して、多重SLEの駆動確率過程の選択には任意性の問題があった。我々は、GFFとの結合条件から、この駆動確率過程が Dyson のブラウン運動模型、あるいは Bru-Wishart 過程とよばれる多粒子系に定まることを証明した。これらはの多粒子系は動的RM理論で中心的な役割を果たす。 (3) 松井貴都氏(中央大大学院)と白井朋之氏(九大IMI)との共同研究で、Heisenberg DPP族は一般次元の複素空間内で超一様性を持つことを証明し、局所数分散に対する漸近展開公式を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1) Peres と Virag は円板上のガウス型ランダム解析関数(GAF)の零点分布は行列式点過程(DPP)であることを2005年に示したが、多連結領域での拡張はこれまで報告がなかった。この拡張は一般には困難と思われるが、円環上の拡張に成功することができた。これは、Peres-Virag の解析の楕円関数拡張を見出すことが出来たことを意味する。その際、この楕円関数拡張で自然に現れる径数(nome)の他に、もう一つ別の径数を導入できることを見出した。これは当初考えていなかったものであり、大きな成果であった。 (2) 越田氏との共同研究において、多重 SLE とガウス自由場(GFF)との結合を研究してきたが、この結合状態の研究から、多重 SLE そのものの基本的な特性が証明できることに気が付いた。これも当初の計画以上の成果であった。 (3) 松井氏、白井氏との共同研究では、Heisenberg 行列式過程の超一様性を一般の次元の複素空間に対して証明することを当初計画していた。研究を進めた結果、それだけでなく、局所数分散の領域サイズに対する漸近展開公式も得ることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 楕円関数拡張に関して、さらに広く、また深く研究を進める。特に、Schlosser氏(オーストリア)、 Koornwinder氏(オランダ)、および星奈津子氏(中央大大学院)と Chaundy-Bullard 恒等式とよばれる組み合わせ論的関係式の楕円関数拡張について共同研究を行う予定である。 (2) 佐久間紀佳氏(愛知教育大)と遠藤大樹氏(中央大大学院)と、ランダム行列で研究されている多粒子系の流体力学的極限を表す方程式系とその解を、自由確率論の観点から研究する予定である。 (3) 遠藤大樹氏とは、可換砂山模型で定義されるオドメータ関数のスケーリング極限と揺動場との関係を研究する予定である。 (4) 本研究課題の中心的課題である行列式点過程を用いて、新しいタイプの連続パーコレーション模型やその上の感染症数理模型の提案とその解析を計画している。 (5) ガウス型自由場(ガウス過程)は情報理論における回帰模型と関連が深い。この見地の下、情報理論、特に機械学習の理論と、本研究課題との接点を模索することを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、フランス(2回)、アイルランド、および九州大学などで開催予定の国際会議に参加を予定しており、それらの旅費として本科研費を使用する計画であった。しかしながら、新型コロナ感染症の世界的な蔓延のため、いずれの国際会議も中止された。そのため、2020年度の使用は不可能となり、次年度使用が不可避となった。今年度は、新型コロナ感染症の状況を見極め、可能な場合には国際会議や国内会議への参加を行い、そのための旅費として本科研費を使用する予定であるが、これが難しい場合には、パーソナル計算機などの機器や図書などの購入に充て、研究を推進するつもりである。
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