3つの研究項目、(1)電子散乱を記述可能とする記憶効果を取り入れた時間依存密度汎関数理論(TDDFT)計算手法の開発と応用、(2)低次元物質の励起子光学応答を記述可能とするTDDFT法の開発と応用、(3)電子・陽電子・原子核相関ダイナミクス計算のための多成分TDDFT法の確立、について研究を行った。 項目1では、機械学習法を用いた、記憶効果を取り入れたTDDFTの交換相関ポテンシャルの開発を行った。1次元2電子散乱モデル系から得られた数値的に厳密な交換相関ポテンシャルの訓練データを用いて、時間依存電子密度を入力とするニューラルネットワークポテンシャルを開発した。特に、初期時刻から現在時刻までの電子密度を時間について重み付き積分をした密度を入力とすることで、記憶効果を取り込んだポテンシャル汎関数を開発することに成功した。開発したポテンシャルは、訓練データ外の電子散乱ダイナミクス計算に対しても良い精度を与えることを示した。本結果を論文に発表した。 項目2では、まず多体摂動理論におけるBethe-Salpeter方程式に近似を加えることでTDDFT法におけるBootstrap交換相関カーネルが導出されることを明らかにし、Bootstrap交換相関カーネルとTran-Blaha metaGGA交換相関ポテンシャルを組み合わせたTDDFT法を用いて、2層六方晶窒化ホウ素および単層遷移金属ダイカルコゲナイドの誘電関数計算を行った。その結果、多体摂動論の方法よりも小さい計算コストで、それぞれの励起子ピークの特徴を正しく計算できることを明らかにした。結果は論文に発表した。 項目3では、研究代表者らが開発した電子‐陽電子相関ダイナミクス解析に向けた時間依存多成分密度汎関数理論(TD-MCDFT)において、Ehrenfest法を適用することで、原子核に働く力を近似的に定式化することに成功した。
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