研究課題/領域番号 |
19K03676
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
末松 信彦 明治大学, 総合数理学部, 専任准教授 (80542274)
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研究分担者 |
小田切 健太 専修大学, ネットワーク情報学部, 准教授 (20552425)
池田 幸太 明治大学, 総合数理学部, 専任准教授 (50553369)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 自己駆動粒子 / 界面化学 / 走化性 / 確率統計 |
研究実績の概要 |
水面滑走する自己駆動粒子の振動運動を利用して、バクテリアの走化性を実装することを目指して実験を行った。その結果、化学反応に伴う間欠的な振動運動を示すフェナントロリン粒子が、化学濃度勾配下に置かれると、低濃度側に存在する確率が高くなることを実験的に示すことに成功した。振動運動において、粒子は停止している時間が長く、ごく短時間だけ急速に運動する振る舞いを繰り返す。この短時間の運動はほぼ直線的であった。また、その直進運動の方向はおおむね等方的であることが実験的に示された。それにもかかわらず、低濃度側に集まったのは興味深い結果である。そこで、バクテリアの走化性にヒントを得て、直進運動の長さを測定したところ、濃度の増加に伴い単調に減少することが明らかになった。 これらの実験結果を踏まえて、自己駆動粒子の確率的な走化性を理論的に説明することを試みた。ここでは、離散的にジャンプを繰り返すランダムウォークで粒子の運動を表現した。このとき、位置に応じてジャンプの長さが変わると仮定することで、実験における濃度勾配下の粒子の運動を表現した。その結果、実験とは逆に、高濃度側(ジャンプ距離の短い領域)に集まるという結果が得られた。そこで、実験を注意深く検討し、ジャンプの方向に応じて数%程度のジャンプ距離の非対称性を仮定したところ、実験と同じく、低濃度側に集まることが再現された。これはバクテリアの走化性とも一致している。バクテリアの場合も、濃度勾配を上る場合と下る場合で、ジャンプ距離が変わることが実験的に示されており、数理モデルもその結果を反映して作られてる。その意味で、我々の自己駆動粒子は、濃度応答性の基本的な仕組みのところで、バクテリアの走化性をうまく再現していると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、初年度はバクテリアの走化性と同様のメカニズムで実験結果を理論的に説明することであった。今年度、数理モデルの構築、改訂を行うことで、数値的には実験を再現することに成功した。また、その必要条件として、バクテリアの走化性の機構でも重要となっている、ジャンプの向きに応じた移動距離の非対称性が、今回の無生物系の実験でも重要な役割を担っているということを明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度構築した数理モデルはエージェントベースのランダムウォークモデルであり、数値的な解析にとどまっていた。今後は、このモデルから確率微分方程式を構築し、そのモデル式を数理的に解析することで、確率的走化性の仕組みを理論的に説明することを試みる。また、これまでに得られた成果をまとめて、論文の出版を目指す。 実験では、現在、単体の粒子の運動観察にとどまっていたが、これを多体系に拡張する。これにより、粒子間相互作用が確率的走化性で実現される系の集団運動を実現する。生物では、バクテリアコロニーの時空間パターン形成についての研究が良く知られており、多様なパターンの形成とその仕組みについて報告されている。これらのモデル実験系を構築することで、集団パターン形成の普遍的な仕組みの解明につなげることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
想定よりも順調に実験が進み、理論的なアプローチを前倒しで行ったことによって、実験にかかる費用が比較的少なく済んだ。 また、予定していた年度末の出張がキャンセルになったために、旅費が当初の予定よりも少なかった。
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