研究課題/領域番号 |
19K03678
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
大西 弘明 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主幹 (10354903)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スピン多極子 / 八極子励起スペクトル / 四極子励起スペクトル / 共鳴非弾性X線散乱 / 密度行列繰り込み群 / 数値対角化 |
研究実績の概要 |
磁場中フラストレート強磁性鎖において、2つのマグノンが束縛対を形成するスピン四極子、さらに八極子(3マグノン)、十六極子(4マグノン)と一連のスピン多極子液体が実現することが理論的に示され、注目されている。これまで、四極子状態の磁気特性に関して、動的密度行列繰り込み群によってスピン励起スペクトルと四極子励起スペクトルを解析してきたが、より高次の多極子に枠を広げて、八極子励起スペクトルの解析を進めた。四極子状態では有限のエネルギーギャップが生じるのに対して、八極子状態では、反強八極子準長距離秩序に対応するギャップレスモードが生じることが分かった。磁場・相互作用パラメータ依存性の詳細な解析を進行中である。 磁気特性と輸送特性の関連を明らかにするために、カレント相関関数の解析も進行中である。まとまって運ばれる角運動量が2から3に増えるとスピン伝導・熱伝導の増大が期待されるが、予想に反して、2マグノン領域から3マグノン領域への転移点をまたいでスピン流と熱流の相関が急激に減少することが分かった。四極子励起スペクトルと八極子励起スペクトルを比較すると、八極子励起スペクトルの方が分散の傾きが小さく、3マグノンクラスターの伝播速度が小さいことが要因であることを示唆している。 スピン四極子を検出する手段は確立していないが、スピン四極子の励起を観測できる有力な実験手法として、共鳴非弾性X線散乱(Resonant Inelastic X-ray Scattering, RIXS)に着目した研究に着手した。LiCuVO4のRIXS実験を共同研究として開始して、その実験結果と比較するために四極子励起スペクトルの低磁場での振る舞いを数値計算で詳細に調べた。磁場方向や、入射光・反射光の偏光に対する依存性を総合的に理解するために、現在、RIXSスペクトルを解析するための計算コードを開発中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
動的密度行列繰り込み群により、幅広い運動量・エネルギー領域での八極子励起スペクトルを解析して、ギャップレスモードや分散関係の特徴を捉えた。カレント相関関数の振る舞いと整合する結果が得られており、磁気特性と輸送特性の関連について理解が進展した。また、スピン四極子の直接観測に関して、当初計画では検討していなかったRIXSの研究にも新たに着手して、実験との共同研究を推進した。国際会議や学会で、成果発表も行なった。
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今後の研究の推進方策 |
スピン多極子状態の磁気特性に関して、動的密度行列繰り込み群によるスピン・四極子・八極子励起スペクトルの系統的な解析を進めていく。輸送特性に関して、マグノンクラスターの波束ダイナミクスを時間依存密度行列繰り込み群によって調べる。また、スピン流と熱流の結合効果であるスピンゼーベック効果に関する研究項目を推進するため、有限温度でのスピン伝導度や熱伝導度を解析する手法として、有限温度密度行列繰り込み群とデータサイエンスのアプローチを応用した計算手法の開発とその実装に取り組む。有限温度密度行列繰り込み群とは相補的に、熱的量子純粋状態の方法についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成31年度に並列計算用のワークステーションを購入予定であったが、現在選定作業中であり、令和2年度に導入予定である。生じた次年度使用額は、ワークステーションの購入に係る費用として使用する。
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